つながる3つのミステリー | [書評]安達ヶ原の鬼密室
話題のミステリー小説家の過去作品文庫化
第57回日本推理作家協会賞や第4回本格ミステリ大賞を受賞した『葉桜の季節に君を想うということ』で有名な作者の過去作品が、ようやく文庫化されました。標題の作品を含めて3編が収録されているのですが、この3編には繋がりがあります。2編を読むとその共通性はすぐにわかってしまうのですが、それでも3編目も十分に楽しむことができます。
ただし歌野作品としては真っ当すぎるほど真っ当で、読む人によっては期待はずれに思えるかもしれません。
至極の謎解き
3編の中で私が最も好きなのは、「The Ripper with Edouard ――メキシコ湾岸の切り裂き魔」です。ミステリーが好きで、硬派な警察小説からコメディミステリー、そして最近では専門的な知識を生かして謎を解決する職業ミステリーまで様々な小説を読んでいる私ですが、見事にだまされてしまいました。
後から振り返れば、どうしてこんなに簡単なことに気づかなかったのだろうかと思うのですが、種明かしされるまでは、本当にさっぱりわかりませんでした。標題作品に関しては、現実的には有り得ないであろうという要素が多く含まれており、リアルを追及するタイプの読者は楽しめないかもしれません。
しかし入り組んだ構成になっており、単なるフーダニットではなく、他にも数々の謎が課悪されていますので、謎解きが好きな人はたまらない作品です。
リアルを離れてどれだけ謎解きに集中できるかが、この本を楽しめるかどうかの分かれ目になることでしょう。その点で、少し古いタイプの、もしくは漫画に近い作品かもしれません。
一つ引っかかったのは、主人公のキャラクターです。3編共通して、主人公がなかなか「イイ性格」で、共感することが難しいのです。どうしてこんなにイライラさせるタイプばかりを主人公に据えるのだろうかと不思議に思うほどです。作者には何か意図があるのかもしれませんが、そこまでは読み取ることができませんでした。それでも、暇つぶしや頭の体操には役立つ、読む価値のある作品だと思います。