マイセン人形マニアの一生 | [書評]ウッツ男爵―ある蒐集家の物語


視点が小気味よい物語

舞台は1960年代。鉄のカーテンが張られて冷戦真っ只中の時代の一人の蒐集家の物語です。

蒐集の対象はマイセンが中心の焼き物芸術。特に人形の冷たい感触に魅入られたウッツ男爵の一人称とそれを追う人間の三人称視点。芸術を巡る様々な人間の思惑が絡み合う不思議な物語です。

蒐集に関する記述よりも、ウッツ男爵とはどんな人間なのか、一人の人間性を感じます。人が物狂いになる、良くも悪くも一生を賭けることとはどんなことなのか、一人の人間としてある種の尊敬を持てました。

やきもの狂いの蒐集家として、各国に対する評価も切り口が可笑しく、なるほどそんな生き方もあるのか!と思わされました。

愛に飢える

秘蔵のコレクションのせいで生れる愛などまっぴら。

ウッツはコレクションに対する愛と人の愛は似てるようで異なるものだと読み取れます。コレクションは無償の愛である。そんな気概を感じざる得ない記述がところどころに散見します。コレクションに対する愛は、ずっと変わらず。

しかし、女性に対する愛は物語が進むにつれて変化を見せます。ウッツの視点では全然女性にモテていないのに、女性とのかかわりを描いた場面では遊び人でもあったことが伺えます。人間の脆さというか、本質が垣間見える人間らしい生き方を感じます。

コレクションの行方

ウッツとマイセンのコレクションを巡る物語は後半、ミステリーに変容していきます。ウッツ自身の葬式が冒頭で描かれており、回想のような流れになっています。

途中、ウッツが亡くなった知らせを聞いた「私」がコレクションの行方を追う展開になります。過去の登場人物と再会しながら謎に迫っていきます。物語を読み進めていく上で読み手として推理をしましたが、大きな謎を残したまま推理をうち破られていきます。ミステリー小説らしいコテコテな謎ではない分、ストレスなく物語として読める感じが楽しいです。

最後の一ページのちょっとした爽やかな雰囲気は中々味わえない独特の良さだと思います。


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