ガリレオファンにとっては定番ストーリー展開 | [書評]禁断の魔術
おなじみガリレオシリーズ
原作は、ベストセラー作家の東野圭吾さんです。2015年に単行本「禁断の魔術」の中の第4編「猛射つ」として書かれた短編が、一冊の文庫本として改稿されたものです。
ガリレオシリーズの作品ですので、定番通り犯人(?)は、すぐわかります。裏表紙に思いっきり書かれてますので。
高校の物理研究会で湯川の後輩にあたる古芝伸吾は、育ての親だった姉がなくなって帝都大を中退し町工場で働いていた。
(中略)
伸吾が失踪し、湯川は伸吾のある“企み”に気づくが…。
ガリレオシリーズの味わいは継承していますので、ファンなら読んで損はないでしょう。
ポイントは湯川と伸吾の心の葛藤
伸吾は、恨みからある人物を殺そうと計画します。その計画に使用する方法は、毎度おなじみ科学的なもので、「ほほう、そんなこともできるのか」と思われ、少々複雑なものです。
私は、現実的には、殺人方法として本書の方法が成立するかどうか微妙と思いますし、作品中でも50%程度の成功率と書かれています。他の推理小説でもたまにありますが、基本的に、ガリレオシリーズの殺人方法は、確率的に実現性の怪しいものがあるので、そこまで期待してはいけません。
ファンの方もその辺は了解済みですよね。面白いのは、殺人方法を暴くのが面白いのであって、現実的かどうかは考えないようにしましょう。
この作品で良いところは、東野圭吾さんの長編推理小説に共通する伸吾を殺人に駆り立て、それを理解できるがために苦悩する湯川の心理描写だと思います。本作品では、その心理描写がクライマックスの湯川と伸吾の心のせめぎ合いに反映されています。特に、湯川が伸吾を指導したことがあり、伸吾の殺意を持った動機も理解できるので、湯川は伸吾を特異な方法で、あるべき方向に導こうとします。
それが成功するのか、しないのか。
最後に
一応、裏表紙には、「シリーズ最高傑作!」と書かれていますが、同意するかどうかは読者次第です。確かに本書は、ガリレオシリーズの中では読むに値するものだと思います。
しかし、残念ながら「容疑者Xの献身」は超えられていないので、「シリーズ最高傑作!」というのは言い過ぎかもしれません。