とても優しくて不器用な人たちの人間物語 | [書評]きらきらひかる

きらきらひかる
著者: 江國 香織
ISBN:4101339112 / 発売日:1994-05-30
出版社.: 新潮社

それぞれに個性的な登場人物たちと複雑な関係性

主な登場人物は笑子、睦月、紺の3人です。

笑子はアルコール中毒で、情緒不安定な性格です。時に、突拍子もないこと言動で周囲を驚かせます。睦月は医者であり同性愛者で、彼氏がいます。穏やかな性格で、笑子と紺に振り回され気味です。紺は、睦月の彼氏であり、笑子とは友達です。自由な性格で、ヒッピーのような雰囲気があります。

笑子と睦月の二人は夫婦でありながら性的な関係はなく、結婚しても恋愛は自由であるとしているため睦月と紺の関係について、笑子は承知しています。笑子と紺はライバル関係になっても良さそうなものですが、ちょっと変わり者の二人は本当に気があうようで仲良しです。

一見とても複雑で不安定な関係性に思えますが、3人はとても仲が良く、互いを思いあっているのです。そんな3人の、恋愛と友情が入り混じったような、不思議な物語です。

上手くいかない3人の関係

笑子と睦月の結婚について全ての事情を知るのは、当事者である笑子と睦月、紺の3人のみです。しかし、この複雑な関係が周囲の人に知られることによって歪が生じてしまいます。

どうしてこのままじゃいけないのかしら。このままでこんなに自然なのに。

という笑子と、

時間は流れていくし、人も流れていく。変わらずにはいられないんだよ。

という睦月。おそらく互いの言い分を理解しつつも、現実と理想の間ですれ違ってしまう展開には、胸が締め付けられる思いです。

純粋に、人を好きになることについて考えさせられる

例えば、笑子が抱いている睦月に対する“好き”という感情と、紺に対して抱いている”好き“という感情は、笑子自身が自覚しているかどうかは別にして、似て異なるものでしょう。睦月の笑子と紺に対するそれや、紺の睦月と笑子に対するそれに関しても同じことが言えるのではないかと思います。

でも、その違いって何だろうか?愛情や友情は、何が違うのだろうか?人を好きになるということ、好きな人を大切に思うことに、違いがあるだろうか?純粋に互いを思いあっている人間が3人集まっていることは、いけないことだろうか?そんな哲学的なことを考えさせられる物語です。

きらきらひかる
著者: 江國 香織
ISBN:4101339112 / 発売日:1994-05-30
出版社.: 新潮社

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