警察小説として類を見ない迫力と感動を与える名作 | [書評]64(ロクヨン) 上

64(ロクヨン) 上
著者: 横山 秀夫
ISBN:4167902923 / 発売日:2015-02-06
出版社.: 文藝春秋

ドラマ版、映画版を見た人にもオススメ!

“ロクヨン”はNHKドラマや2016年春公開の映画で、映像として見た人も多いと思います。ドラマ版もさすがNHKと言わせるぐらい秀作でした。しかし、原作も読むことをオススメします。もちろん原作を最初に読むのも有りです。ドラマや映画は、映像ならではの迫力のある行動、言動、ぶつかり合い、そして驚きの感動を提供してくれます。しかし、原作本は、文字により、映像では語りつくされていない本当の” ロクヨン”の世界に読者を引き込んで、読者の”ロクヨン”を作り出させる力があります。

例をあげれば、広報部婦警の美雲の意思の強さが原作本では必要十分に書かれており、美雲という人物をドラマなどより鮮明に描きだしています。

ロクヨンの概要

下巻の裏表紙に次のように書かれています。

記者クラブとの軋轢、ロクヨンをめぐる刑事部と警務部の全面戦争。その挾間でD県警が抱える爆弾を突き止めた三上は、長官視察の本当の目的を知り、己の真を問われる。そして視察前日、最大の危機に瀕したD県警をさらに揺るがす事件が——

主人公の三上警視は、警務部所属の広報官ですが、元刑事部の刑事です。ポイントをまとめると次の7点です。
・昭和64年の未解決少女誘拐殺人事件(ロクヨン)
・当該事件中に発生したある問題
・三上の娘の失踪
・刑事部の人事問題
・刑事部と警務部の軋轢
・広報部と記者クラブとの関係
・ロクヨンの犯人は誰か

刑事部と警務部の軋轢と、広報部と記者クラブの対立と…

本書は、主人公の心理描写を中心に、ロクヨンの世界に簡単に読者を引き込んでしまいます。この心理描写を、本ならではの文字により読者は細密に理解することができます。

また、登場人物が主人公その他素晴らしく描写されており、正義と悪、葛藤、あるいは悲しみが綿密に考えられた文章により伝えられます。一見すると全く別の話のように読める個々の事象が、実は全て繋がっていることに驚かされます。

文庫本で800ページ近い長編で、ここまで綿密に考えられ、驚愕のストーリーでありながら、登場人物の意識を矛盾なく書かれている作品を、私は読んだことがないです。さらに警察庁長官視察と、刑事部と警務部の軋轢と、広報部と記者クラブの対立と、ロクヨンをシンクロさせ、怒涛のクライマックスへと展開する技は驚嘆に値します。

執念と覚悟を持った登場人物たち

この本は、執念と覚悟を持った人たちを描いた小説だと思います。作者、横山秀夫氏の他の作品も読みたくなること請け合いです。

64(ロクヨン) 上
著者: 横山 秀夫
ISBN:4167902923 / 発売日:2015-02-06
出版社.: 文藝春秋

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