夢野久作の「ドグラ・マグラ」が好きならおススメ | [書評]イビサ

イビサ
著者: 村上 龍
ISBN:4061859331 / 発売日:1995-04-06
出版社.: 講談社

お話は問題じゃない??

イビサを読んでいると、はじめから筆者はストーリーテリングをする気がないんだなという感触をもちます。

積極的に、お話を追って楽しむというタイプではないということです。

イビサ。その固有名詞がいつわたしの中に入り込んでしまったのか思い出せない、

酸化した酒の匂いのする新宿の裏路地で腹にナイフを受けほとんど致死量の血を流し助けを呼ぶ髪を金色に染めた少年が最後の最後にわたしに呟いた台詞の中にその固有名詞があったわけではない。

これは冒頭の文章です。とても長いですが、実際に日本語の意味だけをとるとほとんど内容のない文章です。ただ独特の酩酊感があって、「そこを楽しむ小説なのかな」と思わされます。

これは一種のカルト小説で、夢野久作の「ドグラ・マグラ」と一緒によく買われているっぽいです。

ドグラ・マグラは日本三大奇書と呼ばれる小説で、「読むと気が狂う」というキャッチフレーズで話題を呼び、最近ではヴィレッジヴァンガードで雑貨としても売られています。

どう楽しむ??

「小説はドラッグのようなものだと思った」と筆者の村上龍は初期作品のあとがきで述べていますが、イビサの強烈な描写や読んでいると目がまわる感じもそんな感覚です。

書き手の意図もそこにあるのではと思えるほどです。一見難解には見えますが、ストーリーをおえば分かるように書かれていますので、ただ描写のきつい感じや、

文字の並びからくる生理的な感覚に酔っていればそれで十分なのではないかと思います。「普通のコーラ飲むのに飽きたからチェリーコーラ飲もう」とか「人口甘味料たっぷりのドクタペッパーが癖になる」とかそういう感覚でいいのではないのでしょうか?

ただ生理的な感覚といっても、わかりやすいものではなく文章を読んでいるときに起こる特有のものだとは思います。

全体が熱に包まれると曇りが消え水が僅かに揺れ始める。沸騰の前兆の揺れは舞踏ではなく昏倒だ。揺れと共に水際から音が出る。

なにかメッセージを読みとろうとせずむしろ気楽に読むべきポップな小説だとは思います。

イビサ
著者: 村上 龍
ISBN:4061859331 / 発売日:1995-04-06
出版社.: 講談社

あわせて読みたい