東野圭吾作品の中では特筆すべきトリック | [書評]聖女の救済
登場人物の心理は、原作を読まないと語れない
この作品は、「ガリレオ」シリーズの第二シーズンに放送されていたんですね。私は当時、見てないのですが、ネットをさらっと見てみたところ、ドラマへの原作から逸脱していることへの批判があります。今回ドラマには触れませんが、原作は秀逸ですよ。ドラマがあまり面白くないと思った方は、できれば原作を読んでほしいです。トリックは多分同じだったでしょうが、登場人物の心理は原作を読まないと映像では語れないと信じる次第です。
登場人物の心情からトリックが作り出される
ガリレオ物なので、推理小説の部類なのですが、登場人物の心理描写が素晴らしいです。同じガリレオ物の「容疑者Xの献身」とどっちが良いかと言われると迷います。
犯人は、ほぼ入り口あたりで明確になります。問題は、そのトリックなのですが、そのトリックについて湯川が内海に次のように言っています。
「今日、君が帰った後も、あれこれと考えてみた。
○○(犯人の名前ですが略します)が毒を入れたと仮定して、どういう方法を用いたのかをね。僕が出した結論は、この方程式には解はない、というものだった。ただ一つを除いてね。」
「ただ一つ?じゃあ、あるんじゃないですか」
「ただし、虚数解だ」
「理論的には考えられるが、現実的にはありえない、という意味だ。」
うまいですね。「虚数解」とは。数学ではなければならない虚数ですが、実数ではないので、現実にはない。そこで、その「虚数解」を成し得るに至る犯人の状況、心理が、くどくなく、かつ綺麗に描写されています。恐ろしいけど、美しい犯罪です。
レギュラーの登場人物の描写が一風違う
他のガリレオ物でもおなじみの登場人物が、湯川先生と、内海刑事と、草薙刑事です。内海刑事は、この作品で初登場となっています。注目すべきは、草薙刑事の扱いです。本作品では、普通に捜査しているだけではありません。犯人に特別な感情を持ちます。いつものガリレオ物と違って変と思うかも知れませんが、ストーリーを冗長にしているわけではなく、犯人の心理描写を明確に示すためだと私は感じました。
最後に
毎回推理小説を読むと、そのトリックの成功が運に左右されていないか考えます。50%の確率で発生する突発的事象で失敗するようなものはトリックではないと私は勝手に思っています。せめて、90%の確実性が無いと。この作品のトリックの場合は、私は十分に確実性があると思います。虚数解でなく、実数解であることが、本を読んでもらえれば分かるはずです。