ほんわかファンタジーに癒されるだけではない、予想以上に重いテーマの作品 | [書評]ぶたぶたの花束
「ぶたぶたさん」とは?このシリーズのお約束について
動いてしゃべるぶたのぬいぐるみ「ぶたぶたさん」が登場するバラの花にまつわる4つの短編集です。ぶたぶたさんは、こう見えて実は中年男性。優しさと思いやり、思慮深さを持ち合わせ、どんな事態にも冷静な判断ができる素敵なおじさまでありながら、外見はピンクでバレーボール大のぶたのぬいぐるみであるというのが、その最大の特徴。
そして、ぶたぶたさん以外の登場人物は、すべて普通の暮らしをする普通の人々であり、彼の姿をみて最初は驚くものの、次第に心を開き、癒され、最後には、他の人が彼を見て驚く姿をみるのが楽しみになってくるというのがおきまりの展開です。
ほんわかファンタジーと思いきや、身構えていないと胸のつまる作品
予想通りファンタジーであり、ほんわかとして、愛情たっぷりの癒される作品ばかり・・・・と言いたいのですが、、このシリーズにはときたま、そんな予想を裏切る作品が含まれていることがあります。身構えずに読んでいると、予想外の衝撃に、胸がつまって先に進めなくなるようなことすらあります。今回の4つの短編のうちの一つ「いばら屋敷」がそれにあたります。その一部を引用してみますね。
「・・・・・おじちゃんがいる時のほうが怖いかな」
「どうして?」
「なんかおっきい声出すし・・・・・お母さん、ぶったりするし」
「のどかちゃんはおじちゃんにぶたれないの?」
「うん・・・・・」
でも、足で押しのけられたり、いきなり突き飛ばされたりする時があった。のどかはそれをうまく説明することができない。
これは、五歳の女の子のどかちゃんが自宅で母親と母親の恋人である男性に虐待をうけ、逃げ込んだ場所で、ぶたぶたさんと交わす会話です。
たった、数行読んだだけでも、涙と怒りがこみ上げてくる方も多いのではないでしょうか。
子どもの虐待について、さりげなく問題提起する心して読んでほしい本
この作品には次のようなコメントもでてきます。「児童相談所にも相談したけど、あいつら忙しすぎて、全然動けない」「警察にも相談したけど、なんか証拠があればってことを言うわけだよ」。この言葉から、現実の虐待の現場が見えてきます。動くべき人たちには人手が足りない、動きたくても証拠がなければ何もできない。
この作品ではそんな状況の中、ぶたぶたさんが、のどかちゃんを励まし、お弁当を作ってあげたり、絵本をプレゼントしたりしながら、救いの手を差し伸べてくれるのですが、彼が存在しない現実の世界は、どうなのか、考えてみただけで、心が痛みます。予想に反して、重いテーマを投げかけるこの一冊。甘くみないで、心して読んでほしいと思います。