鬱屈とした1人の男性を描き切った名作 | [書評]地下室の手記

地下室の手記
著者: ドストエフスキー
ISBN:4102010092 / 発売日:1970-01-01
出版社.: 新潮社

ロシアが生んだ名作家、ドストエフスキーが閉塞感にまみれたロシア帝国に生きるある一人の男の少しの人生の一コマを描いたのが、この「地下室の手記」です。

現代の男性となんら変わらないコンプレックスと葛藤、そして女性に対する反応とをうまく表現しており、今の日本の男性にこそぜひ読んでほしい奇作でもあります。

一人のとある自意識過剰な男性の葛藤

社会が閉塞感を増して、ピリピリしている国内情勢の中、一人の自意識過剰な男が何故自分は評価されないのかと悩む姿から物語は始まります。

他の者よりも賢く、そして品行方正で過ごしている。そんな40歳になる男が悪にもなれず、だからと言って大きく成功する事も出来ずにただ地下室に篭り手記を書いた。というのがこの話の大まかなあらすじでもあります。

この話の凄い所はそんな誰にでもある願望や、悩み、男性としてのコンプレックスをある一人の男の手記という形式でまとめたという所です。

表現方法もドストエフスキーならではの細部にわたる事細かさでロシアの雪がどんな物か、それが男の心にどう映っているのか。と読者に伝えており、男性なら共感を得て少し感動してしまうでしょう。

娼婦に積極するというシーンの滑稽さ

「何だかあなた・・・まるで本を読んでるみたい・・・」と彼女は言ったが、突然また、何やらいわば皮肉が、その声の中に感じられた。

 

 これは痛烈で我に返らせる言葉だった。僕はそんなことを予期していなかった。

長いので色々省いていますが、この地下室の手記の面白い所は娼婦のリーザにこの男が積極を垂れ、何故娼婦として生きているのか。

結婚して幸せな家庭を持ち暮らさないのか。

何故こんな事をして人生を無駄にしているのかと問い詰めます。

そこがまるで本を読んでいるかのようだとリーザに言われ、男がハッとするというシーンです。

ここがまあ滑稽であり、男がこの娼婦に積極するというのが現代でもある貧困や女性、そして他者の人生に対する自分の方が優位であり正さねばと大きなお世話を焼いてしまう感覚の1つで読んでいてこちらも驚かされます。

19世紀にかかれた本なのに、中身は本当に現代男性のある種の深層意識下にある感情を引き出させてくれます。

地下室の手記
著者: ドストエフスキー
ISBN:4102010092 / 発売日:1970-01-01
出版社.: 新潮社

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