ヘヴンはどこにある? | [書評]ヘヴン
どこまで、虐められる!?
この本は学園もので、主人公が虐められっ子の話です。主人公は、黒板消しをなげつけられたり、野菜のクズを食べさせられたり、挙げ句の果てはチョークを食べさせられたり、と虐められ具合がなかなかひどいです。
序盤で、「チョークと絵の具を食べさせられる」という描写があります。白い絵の具を「カルピス」だといって飲まされます。
これは川上未映子のあるあるだと思いますが、とにかく「描写がリアル」です。いじめをここまで、しれっと冷静に描写するのか、と川上未映子のスタンスにはっとさせられます。
これまでに池の水やトイレの水や、金魚や、うさぎ小屋の野菜くずなんかをたべさせられたことはあったけれど、チョークははじめてだった。
僕は目をつむってばきばきと音をたてながらチョークを口のなかで折っていった。ごりごりという音がして、チョークの折れて尖った先が、ほおの内側に刺さった。
読んでいると「イジメ」がどんどんひどくなってゆくので、純粋に「この子大丈夫かな」と心配になって読んでしまいます。
コジマとニノミヤ
いじめられる「僕」のまえに、コジマという女の子が現れます。ひどく虐められている女の子で、主人公にシンパシーを感じて、友達になってほしいと言ってきます。
そうしてふたりはどんどん仲良くなってゆき、夏休みにふたりで美術館にゆくことになります。そこに「ヘヴン」という絵があるということを教えてくれます。
ここではじめて「ヘヴン」という言葉がでてくるわけです。結局そこでは、絵をみることはできません。
夏休みがあけて、「僕」はよりいっそうひどく虐められてゆきます。いじめっ子のリーダーの名前は「ニノミヤ」とあえてカタカナです。好きな女の子の前で虐められるが、子供なりの自尊心から「イジメられている」とは言いだせない。
そういう具合にイジメの「構造」みたいなものが象徴的に書かれていて「これはどうやらコジマと僕だけの話じゃないんだな」と倫理みたいなものについて考えさせられます。
ハッピーエンド?
主人公の「僕」は片目が斜視で、そのことが原因で虐められているのだと、ずっと思っていました。そこで目を手術するわけですが、そのことでコジマに嫌われてしまいます。
コジマは「僕」の目が好きだったと言うのです。そこから話は急展開してゆきます。ここまできたらもう読まずにはいられない、と最後まで一気に読むひとがほとんどでしょう。
主人公が目を治して最後に見た光景が、これでもかという風に綺麗に描かれています。「僕」がうけたひどい虐めも、コジマと仲良くなったのも、ただこの光景を見せるために用意された仕掛けではなかったのかと思うほどです。