神格化された家族関係が病になるとき | [書評]家族という病

家族という病
著者: 下重 暁子
ISBN:4344983769 / 発売日:2015-03-25
出版社.: 幻冬舎

親と子の関係は難しい

最近、反抗期のない子が増えているというが、こんなに気持ち悪いことがあるだろうか。

親の権威や大人の価値観に支配されたまま、言いなりになっていることは、人としての成長のない証拠である。

この著者はすでに父・母・兄を亡くし、家族に対してどこか斜に構えた視点を持っています。父親とはそりが合わず反抗ばかりして、逆に母からは異常な愛情を受けて育っています。愛情の振れ幅が大きな家庭で育ったゆえに、現代の子供に「いい子」が増えすぎている事に疑問を感じています。

私の場合は母親がちょっとした「毒親」で、私は幼い頃から自分の意見や行動を否定され続けて大人になりました。そのせいか、他人と対等な関係を築くことにかなり苦労しています。とにかく人に気をつかい過ぎて、どんなに仲がよくても、本当の自分を見せることができないのです。

反抗期がない子供が増えているのは、親が子供を甘やかしすぎること、そして私のように親があまりに征服的すぎることの二種類があると思います。どちらも子供の人格形成において、プラスな影響を与えるとは思えません。著者が家族に対してどこか冷めた視点を持っているのは、おそらく両親からの愛情のバランスがあまりにも不安定だったのでしょう。

家族という関係が病になるとき

「つらい時こそ家族で助け合って」「どんな時も、家族の絆で乗り越える」そんな耳ざわりのいい言葉が蔓延している現代。では、家族以外の人たちに対してはどうなのでしょうか?

日本はとにかく家庭主義、身内主義と言われています。振り込め詐欺など、家族につけこんだ犯罪に巻き込まれると、人は平常心を保てなくなるようです。また、家族や身内に親身である反面、まったく知らない人には驚くほど冷淡だったりしますよね。

街で急に倒れた人なんかがいると、皆スマホを取り出して、救急車を呼ぶでもなくこぞってパシャパシャと写真を取り出します。また通りすがりで見かけた見ず知らずの人を盗撮して、その人の服装や行動をからかうような投稿をする事もありますよね。それを見た人が面白半分でシェアをして、写真は瞬間的に拡散されてしまいます。

しかし、いざ自分の家族がそんな目に遭っていたら、もはや気が気ではないと思います。同じようにSNSで投稿者に対する攻撃的なクレーム文をアップし、これまた何にでも首を突っ込みたがる人がまた拡散をする。こうした終わらない戦いは今もさまざまなSNSで繰り広げられています。個人主義の欧米では、家族だろうが知らない人だろうが、困っている人には手を差し伸べる文化があります。前述のSNSの話は、日本が島国特有の閉鎖的な性格であることがわかる例ですね。

本当に家族のことを知る瞬間

著者は、家族が老いて病気になり、もう長くないとわかった時に初めて子供に自分の弱さを見せるそうです。著者も母親の遺品整理をしていたところ、父への愛情がたっぷり詰まった手紙を読み、母のイメージが少し塗り替えられたようです。

私の親もそろそろ60代になり、思うように体が動かなくなってくる事でしょう。そこで初めて親の弱さを知り、分かり合える日が来るのではないかと思います。

一番近いようで、実は一番遠くて、よくわからない「家族」という存在。家族って何なんだろう?そんな素朴な疑問を持っている人に読んでほしい一冊です。

家族という病
著者: 下重 暁子
ISBN:4344983769 / 発売日:2015-03-25
出版社.: 幻冬舎

あわせて読みたい