最高の初恋物語。ラストで誰もが百瀬に恋をする | [書評]百瀬、こっちを向いて。

百瀬、こっちを向いて。
著者: 中田 永一
ISBN:439633608X / 発売日:2010-08-31
出版社.: 祥伝社

最高の初恋物語

たいていの初恋は甘酸っぱい。この作品の初恋も確かに少し甘酸っぱいが、それ以上に切なくていとおしい。

主人公の相原はさえない男子生徒。ある日、昔から慕う宮崎先輩に変わったお願いをされる。それは、本命の「神林先輩」という超美人の彼女からの疑いを反らすため、宮崎先輩のもう一人の恋人、「百瀬」と付き合っているふりをしてほしいという頼みだった。

断れず、百瀬と付き合うふりをしていた相原は、だんだん百瀬に恋をしてしまう。一方で、宮崎先輩に本気で恋をし、悩んでいる彼女のことも見ているので思いを伝えることもできない。悩んだ末に出した相原の答えとは。

そして、百瀬、宮崎先輩、神林先輩の本当の思いは。

この中で一番嘘が上手かったのは誰だろう?

読みすすめると、どの人物にもそれはないよとか、それはかわいそうだとか感情移入してしまいますが、ラストに向けて、この話が好きだ!という謎の感情がわきあがる、そんな話です。

ラストシーンの美しさ

百瀬、こっちを向いて。おそるおそる話しかけてみると、彼女は野良猫のような目で僕を振り返った。

このシーンは至高。読者のそれまでの不安やもやもやした感情が、百瀬の野良猫のような目つきで一掃されるさわやかな感じを味わうことができます。

例えるなら、初恋の話によくあるベリーやビターチョコの味ではなくて、夏に飲むよく冷えたレモンスカッシュ。そんな感じの爽やかさです。相原の恋が実ったのかどうかわからないエンディングなのに、ここまで爽やかにできるのはすごい。

それから、百瀬に関してはこのラストシーンにたどり着くまでに、自分勝手だとかめんどくさいとかいろいろな感情を彼女に対して持つと思いますが、このラスト三行で百瀬のきつい目線で見つめられると、これは惚れるよなーと思わされるから不思議です。

スパイスとなっている神林先輩

この話の中で、スパイスとなっているのは実は一番目立たず、一見無垢に見える神林先輩です。

彼女の「ほおずき」のエピソードは誰もが予想していないだけに強烈な余韻を残します。この余韻に浸りながら読んでいると、最後に百瀬に睨まれてこの作品に惚れているわけです。

百瀬、こっちを向いて。
著者: 中田 永一
ISBN:439633608X / 発売日:2010-08-31
出版社.: 祥伝社

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