東欧についての知識皆無でも楽しめる!宝塚で上演もされた「プラハの春」 | [書評]プラハの春〈上〉

プラハの春〈上〉
著者: 春江 一也
ISBN:408747173X / 発売日:2000-03
出版社.: 集英社

アラブの春とプラハの春

「アラブの春」が広がりを見せたのは2010~2012年のこと。独裁政治が続々倒され民主化の波が広がることが期待されたが、現状はISの台頭による大規模テロや難民問題とアラブ諸国の平和は一向に見えてこない。
世界の紛争の根底には宗教や過去の遺恨もあり、良くも悪くも島国である日本は当事者になれないことを痛感します。平和は尊いことでありこの幸せに感謝しなければならないが、平和ボケでミニマムな思考になりすぎ、人の力や意識がどんどん低下している現実が怖くなる時があります。

「プラハの春」とは1968年にチェコスロバキアで起きた民主化運動の広がり。第2次世界大戦後、共産主義体制に組み込まれたチェコは他の社会主義国家より比較的民主的な機運が高く、1968年に入ると検閲を廃止するなど「人間の顔をした社会主義」と呼ばれる、まさに春のように明るい展望が見える国家になっていました。
しかしその流れに危機感を抱いたソ連は、8月に武力侵攻を行いプラハの春は消滅してしまう。
まさにアラブの春のように短期間の春であったのです。

読みやすい歴史書としての価値

本書はまさにその時期にチェコスロバキアの領事館に書記官として着任していた著者が書いた、ノンフィクション小説。歴史的事実を背景に、実在する人物も登場する歴史小説としての顔を持つ一方で、東ドイツの政治犯である女性とのロマンスが並行して語られていきます。
このロマンス部分については賛否両論あるようですが、そのお陰で読みやすくもなっており、日本人にとって馴染みの薄いチェコという国が少し身近に感じられる要因になっています。当時の東西体制の対立の激しさを知らない若い人でもこのロマンスからその事実を伺い知ることが出来ますし、むしろ若い人にこそ読んで欲しい小説です。

私は、権力は本質的に悪である、善なる権力は存在しないと確信しています。
しかも本質的に悪である権力を行使するものは人間です。神ではありません。

これはヒロインの言葉ですが、一個人として善良で理想を掲げたはずの人であっても、権力を持つことで変わってしまう。そしてその気まぐれに蹂躙されるのは、いつの時代も一般市民であることを痛感させられます。

ソビエト軍の戦車がプラハに侵攻した時、非武装・非暴力の姿勢でソ連兵に立ち向かい言葉による説得を試みていたプラハ市民。その映像が残っているのですが、プラハ市民の姿勢は立派ですし命令されただけであろうソ連兵の若者達の表情も、見る者を何とも言えない気持ちにさせるものです。

プラハの春〈上〉
著者: 春江 一也
ISBN:408747173X / 発売日:2000-03
出版社.: 集英社

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