超人的能力を持ちながら、無力さを痛感する理由とは? | [書評]無痛

無痛
著者: 久坂部 羊
ISBN:4344411986 / 発売日:2008-09
出版社.: 幻冬舎

ドラマとの違いを見つける楽しみ

この無痛は西島秀俊主演でドラマ化されていた。
そのドラマを見たのがきっかけで本を手にとった。最初に本を目にしたときは少し厚みがあったため途中で挫折しないかと躊躇したが、その思いは杞憂であった。読み始めてすぐに物語に入り込み抜け出せなくなった。また、ドラマとの違いを確認しながら読むのも一つの楽しみであった。

超人的能力を持ちながら、無力さを痛感する

無痛の魅力はなんといっても主人公為頼の能力、診える眼である。為頼はこの特殊な診察眼でたちどころに病気を発見し治療する。しかし診え過ぎてしまうがゆえに医療の限界を自覚し投げやりになってしまう傾向がある。ここに為頼のもうひとつの魅力があると私は思う。超人的能力を持ちながら極めて人間味のあるキャラクターであり共感を感じる。

ここで為頼の言葉を少し引用してみようと思う。

為頼はガンで妻を亡くしており、その際、妻のがん治療を放棄している。そのことについてヒロインの高島菜見子から治療はやってみなければわからないのにどうして決め付けるのか、と問われて次のように答えている。

わたしには見えるからです。虚しい希望にすがって、手術や抗がん剤に賭けた患者の最後がね。~中略~わかっているのに、みすみす辛い思いをさせろというのですか

それを聞いて菜見子は反論する。じゃあなぜふつうの医者は治療を勧めるのか。と。為頼はなんのためらいもなくこう答える。

それは病気が見えていないか、あるいは自己欺瞞からでしょう治らないと分かっていても、患者の要求に押されて治療をするのです。治療が無意味だと認めるのは医者の沽券に関わりますからね。その一方で放っておいても治るがんに手術や抗がん剤治療をして、自分たちが治したつもりになっている。

常人には持ち得ない特殊能力を持ちながら、その能力を持っているがゆえに他の医者よりも自分の無力を痛感している。そんなこと知らないフリをして自分の利益だけを考えるということができない青臭さに魅力を感じる。

無痛
著者: 久坂部 羊
ISBN:4344411986 / 発売日:2008-09
出版社.: 幻冬舎

あわせて読みたい