男性作家が描くアラサー女性の10年間 | [書評]私という運命について

私という運命について
著者: 白石 一文
ISBN:4043720041 / 発売日:2008-09-25
出版社.: 角川グループパブリッシング

男性作家による女性視点での物語

白石一文は2010年「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞。実は父親の白石一郎も直木賞受賞作家。直木賞初の親子受賞となっています。

2000年にデビュー作である「一瞬の光」で注目され、エリートでインテリ臭漂う会話を漂わせる、メンタル弱めの男性を主人公とした小説を多く描いてきました。一瞬の光は大企業を舞台とした経済小説でもあり、男性には読みやすい小説ではないでしょうか。

個人的にはとても好きな作家ですが、ご都合主義・女性の描き方が理想的すぎると批判されているのを良く見かけます。

でもそれって当然ですよね。異性から見ると同性とは視点が違い、特に好感を抱く相手には理想を重ねるものです。実存とは違うのは百も承知の上で。小説ではない現実であってもそうなのですから、小説の中が全てリアリズムで無くて良いし、むしろ男性視点の理想の女性像を知りたい気持ちの方が強いかもしれません。それを受け付けるか否かは、また別問題ですが。

運命をどうとらえるか

「私という運命について」はそんな作者が1人の女性の29歳から40歳までを淡々と綴った小説です。大手企業の総合職の主人公が、元恋人の結婚式の招待状を受取ることから始まる物語。女性にとって人生に大きな変化が生まれるこの10年を恋愛・結婚・出産・死を通じて描いています。

選べなかった未来、選ばなかった未来などどこにもないのです。

様々な出来事に翻弄されるのですが、元婚約者の母の手紙にあるこの言葉に、主題が集約されている気がします。

運命の一言で片づけるか、全ては自分が選択した上での運命と考えるか。それは人それぞれの解釈で違ってくるのでしょう。

この小説でも女性の描き方に不満が出ていますが、この年代のキャリア女性にはこういったタイプは少なくない。学歴やキャリアのある女性は頑固というか、自分なりの価値観を譲らない・譲れない人は多いもの。息苦しいほど真面目に思い詰めることも多いのです。

女性だけでなく、むしろ男性に読んで欲しい。女に生まれることは選択肢が多い分、悩みも増えるもの。どちらも楽ではありません。

私という運命について
著者: 白石 一文
ISBN:4043720041 / 発売日:2008-09-25
出版社.: 角川グループパブリッシング

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