成長すること人を育てること | [書評]赤めだか

赤めだか
著者: 立川 談春
ISBN:4594056156 / 発売日:2008-04-11
出版社.: 扶桑社

立川談春による極上の成長記

人がどうやって大人になったかを知ることが好きです。
それは著名人に限らず、身近な友人や会社の同僚の話も同様に。

幼い頃に何を考えどんな挫折があって今があるのか、何が好きだったのか。自分のことを語る温度の違いも含め,対象者により興味を持つものです。

「人は一生に必ず一冊の本を書くことが出来る。それは自伝だ」とよく言われますが、これには深く頷かざるをえません。

赤めだかは立川談春による、入門から真打ち昇進までを描いた青春エッセイ。ただエッセイというより、本当によく出来た青春小説といった一冊。まさに私の好む人間の成長記です、それも極上の。師匠の談志を軸に修行の厳しさ、理不尽さ、ライバルへの嫉妬心等が流れるような文章で書かれ、その上手さにスルスルとページが進みます。

この辺はさすが落語家だけあり、きっと語る前に話の筋が脳内で組み立てられているのでしょう。呼吸するのと同じように。

成長と共に読み返したい本

立川流の弟子にとって談志の言葉は絶対。

師匠が白と言えば黒い物でも白と言う世界。談春と同世代の私にとって、当時はそうした上下関係は理不尽なものだと切り捨ていました。今もその思いはありますが、導く側に大きな愛情と才能がある場合はまた別の話です。

談志はまさにその最もたる存在。ただ受取る側も努力と才能が無ければ意味はないし、それを見極めるのも師匠の責任なのでしょう。

師匠と弟子の関係については談志と談春だけでなく、談志を破門した小さん師匠と談志のエピソードも胸を打つものです。年末にドラマ化された際は二つ目昇進までだったので、ドラマを見た人は是非続きは本で!と勝手に宣伝させていただきます。立川流とは何の関係もありませんが。

よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。
そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかとう原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う。

TVは毒を吐く姿ばかりを映していましたが、談志の言葉は真っ当で真っすぐに心に響きます。そしてその根っこが猛烈に優しい。

10代でこれを読んだ人は幸せです。

社会人になった時、親になった時にはまた違った視点で読み返すことができるのですから。

赤めだか
著者: 立川 談春
ISBN:4594056156 / 発売日:2008-04-11
出版社.: 扶桑社

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