“世界で初めてのモノを作る”という哲学がヒットを作る | [書評]横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
この本は任天堂でゲームクリエイターとして活躍された横井軍平さんへのインタビューをもとに構成された一冊です。
ゲームボーイをはじめ様々なヒット商品を世の中に送り出してきた横井さんが、自分の関わってきた商品それぞれに関するエピソードを交えながら、どういう思考過程で開発までに至ったかを語ってくれています。
出来上がったモノはエンターテインメント性に富んでいますが、エンジニア出身の横井さんですから開発に至るまでの思考は非常に地に足がついています。
なので娯楽業界と関係のない分野で働いていても、なにかモノあるいコトをつくることを仕事にしている人であれば必ず役立つであろう視点がたくさん見つかるはずです。
枯れた技術の水平思考
先端技術ではなく、使い古された技術の使い道を変えてみることによって、まったく新しい商品が生まれるという考え方
横井さんの代名詞とも言えるフレーズがこの「枯れた技術の水平思考」です。
エンジニアが陥ってしまいがちな技術に惚れこむことであったり、新しい技術を理解するとすぐにそれを使ってみたくなる衝動であったりに対するアンチテーゼとして非常にわかりやすく、周りが見えなくなってしまうことを避けるためにも定期的に頭に叩き込みたい言葉です。
エンジニアにとって素晴らしいものと消費者にとって素晴らしいものが一致するとは限りません。どれほどすごい技術が注ぎ込まれたモノであっても、誰かの手に取ってもらえなければ何の価値もないのです。
これは先端技術を扱うことのメリットとデメリットを把握するためにも重要な考え方だと思います。
見栄を捨てることが大事
専門性の高いエンジニアほど、難しい技術を使わなければモノができないという誤解をしていることが多いという話が本書にでてきます。
すごいモノをつくる必要はなく、エンジニアとしての見栄を捨てて、使ってもらうそして売れるということに徹してはじめて作った商品に価値が付属していくのだということだと思います。
非常に難しい問題ですが、技術と世の中の間で折り合いをつけるのもまた”技術者”としての役割なのかもしれません。
世界で初めてのモノを作る
世界に一つしかない、世界で初めてというものを作るのが、私の哲学です。
誰かからの依頼を受けて作るのももちろん良いのですが、エンジニアの原点はやはり自分でこうしたものがあったら良いかもしれないと考え作ってみることにあると思います。
そしてそれは類似品はあったとしても間違いなく自分だけの世界に一つしかないモノです。
ゼロから生み出すものづくりの楽しさが本の序盤ではなく、終盤に書かれていることに意味深さを感じます。
各商品について語っている横井さんはもちろん技術的な話もされています。技術に携わる者としてそれもまた面白いのですが、何よりどんなものづくりに関わっても活かせる考え方がたくさん語られているというのが本書の見どころだと思います。
サクサク読めるにも関わらず中身は非常に濃いので、ぜひまだ読まれていない方にも知ってもらえたら嬉しいと感じました。