世界で一番危険な都市東京で震災「難民」にならないために | [書評]都市住民のための防災読本

都市住民のための防災読本
著者: 渡辺 実
ISBN:4106104296 / 発売日:2011-07
出版社.: 新潮社

2011年3月に発生した東日本大震災、またつい最近は熊本大地震が発生した。

発生後の避難民対策等に多くの混乱が発生しておりまだ日本の地震対策は十分とはいえない。また1923 (大正12)年に発生した関東大震災より既に100年近く経過しており、首都直下型地震が発生する可能性が切迫している。

本書は2007年に発行された「高層難民」を元に東日本大震災後の著者の取材、経験をもとに加筆修正した書である。そのため高層階マンションに住む住民の震災対策が詳しく著述されている。

首都圏で直下型地震が発生した時に想定される状況を「高層難民」「帰宅難民」「避難所難民」の3つに分類し各難民の問題点と実行すべき対策を論じており、大地震が起きる前に一読しておくべき書である。

タワーマンション住民は「高層難民」となることを覚悟し生き残り対策をせよ。

高層マンションにお住まいの方は大地震が発生したら相当な期間「難民生活」を強いられることを覚悟しておいてください。「難民生活」の程度は(中略)概ね1週間以上は想定したほうがよいと思います。

素晴らしい夜景が堪能できるタワーマンションが富裕層を中心に売れ行き好調だそうだ。マンションも免震、耐震設計を強調し安全性を宣伝している。

しかし実際にM9クラスの大地震が発生したらどんな影響があるかは起きて見なければわからないのである。高層階マンションではエレベータが命綱となる。しかしエレベーターが停止したら階段で歩いて移動しなければならないが、数十階の階段を水等を持ち何度も往復することは体力的にできない。つまり高層階に閉じ込められた「高層難民」となってしまうのだ。

では高層難民したとき籠城するためにはどのような備蓄が必要か、水、食料、トイレについて具体策が丁寧に説明されている。この内容は高層階住民でなくても、支援物資が届かない、断水が発生してトイレが使えないときなどの対策として役立つだろう。私は猫を飼っているので震災時のトイレ対策もかねて猫用トイレ砂を備蓄しておきたくなった。

またエレベータに乗っているときに震災が発生し閉じ込められたらどうなるか。最悪、救助が来るまで数日間かかる事態が発生する。

必要なのは「コンビニ袋・ラジオ・ペットボトル」だそうだ。コンビニ袋は排泄用に使い、ラジオで情報を取得し、ペットボトルの水で体力を保持することを提唱している。見ず知らずの人と数日間エレベータの狭い空間に閉じ込められトイレも行けないとは想像するだけで背筋が寒くなる。

しかし最悪の事態を想定しておけば多少は心の準備ができる。またエレベータ内に必要最小限の防災用品を備蓄するよう提案している。私の会社のオフィスのエレベータを隅を確認すると幸い防災用のこーながあり準備はされてるようで安心した。しかし、この本を読んで怖くなり必要な時以外はエレベータに乗らず階段を使うようになってしまった。

見かけの豪華さに惑わされず、高層階で暮すことのリスクと対策を考えておくべきだろう。

あふれかえる「帰宅難民」をどうするのか

「帰宅難民」とは大震災で交通が麻痺してしまい自宅に帰れなくなった人々のことである。先の東日本大震災や熊本大地震は地方だったので帰宅難民は発生しなかった。東京に就業人口が一極集中していることで発生する現象である。

冬の午後6時に地震が発生した場合、なんと首都圏で約650万人、東京都内で約390万人の難民が発生するという想定になっています。大地震の後、首都圏でこの650万人の人々が帰宅できずに、駅やその周辺に滞留する光景をあなたは想像できるでしょうか?

東日本大震災で首都圏は津波のように直接の被害はなかったものの、安全確認のためJR、私鉄ともほぼ停止した。東日本大震災の時もJRが早々と構内から乗客を追い出し締めてしまったので駅周辺に人があふれる事態となった。仕方なく徒歩で「粛々と」帰宅する人が多かった。

しかし首都直下型地震で火災や建物倒壊等の直接の被害が発生し生死にかかわるような状況になったらパニック状態が起こる可能性もある。また帰宅支援ステーションとしてコンビニ、学校等が都から指定されているが大量の帰宅難民を前にして果たして機能するだろうか。行き場を失った帰宅難民が暴徒化することはないだろうか。

著者は「帰宅難民は帰すな」と主張している。交通の妨げとなり安全が確保できない中無理に知らない道を歩くよりは交通機関の回復を待ち、オフィスの倒壊する危険性、火災が近くで発生していないか等の問題がなく安全が確保できれば、無理に帰らずともオフィス内にとどまる方がよいだろう。

また個人的な事情で帰ることを選択する人もいる。被災時にコンビニのアルバイトが被災者の対応できるかといえば正直厳しい。そのような人たちのために災害時の支援ステーションが機能するか調査し実際の災害に役立つよう改善してほしいものだ。

人口集中する首都圏で被災者は「避難所難民」を覚悟せよ

先日の熊本大地震でも家屋が倒壊し家に住めなくなった多くの避難民が問題になっている。首都圏で地震が発生し火災、家屋倒壊等で700万人の避難者が発生しそのうち親類・知人宅を頼ることができない人が460万人になると想定されている。

東京都での被害想定では(中略)自宅が被災して避難所へ向かう避難者は約231万人と想定しています。(中略)23区内の避難スペースは全く不足していることがわかります。(中略)不足分は(中略)東京ドーム12個分近くです。それだけの避難所スペースが不足しているのです。

熊本大震災でも避難所の物資の補給方法等の運営方法、避難所に入ることができず車中生活をしエコノミー症候群になる人が問題となった。地方都市と比較し圧倒的に人口が集中している首都圏で避難所が混乱なく運営できるのか、とても厳しいだろう。

また帰宅難民が地域の避難所に支援を求めて押し寄せる事態も発生するだろう。実際に東日本大震災には高校に帰宅困難者が押し寄せてきたことがあったそうだ。

緊急支援物資が避難民に届かず、避難した人が飢餓状態になったり暴徒化し治安が悪化することはないだろうか。

そこで著者は支援物資の配給方法についても物だけでなくお金、金券、クーポンで渡したほうが好きなものを購入できてよいと提言している。熊本大震災でも問題になったように物で配布するのは限界があある。

電子クーポン等ならデータで配信できるのですぐに被災者を助けることもできる。もう少し柔軟に物資の配布方法を検討するべきだろう。

これからの防災対策はどうすべきか

高度成長の時代には、東京一極集中が加速して、都市の大改造が進みました。土地は限られていることから、都市はタテの方向に広がりました。(中略)その結果、東京は、知らず知らずのうちに、潜在的に世界一危険な巨大都市になりました。(中略)都市の合理性・経済性・快適性を最優先にした結果、人間の居住空間としてもっとも重要な「安全性」はどこかに追いやられてしまったそうです。

こう著者は警告する。毎日の通勤ラッシュ等のように人口が一極集中し巨大ビル群が立ち並ぶ東京は大震災が起きれば相当の混乱と被害が発生することを自分のこととして覚悟しなければならない。

東日本大震災や熊本大震災は地方でまだ地元のコミュニティが存在し助け合うことができた。また下水道が整備されておらず、トイレが汲み取り式だったので水で流す必要がないためトイレ問題が発生しなかったそうだ。

同じ地震でも発生する被害状況は地方と都会では大きく異なる。大震災で生活基盤の一部が崩れた時に「難民」とならないよう、本書のアドバイスを参考にできることから実践しておきたい。

都市住民のための防災読本
著者: 渡辺 実
ISBN:4106104296 / 発売日:2011-07
出版社.: 新潮社

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