大人が楽しめるファンタジー物語 | [書評]鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
著者: 上橋 菜穂子
ISBN:4041018889 / 発売日:2014-09-24
出版社.: KADOKAWA/角川書店

大人のためのファンタジー

本作はファンタジーですが、伝染病や、民族同士の共存または侵略のための微妙な関係性を描いた物語は、子供よりもむしろ大人が楽しめる物語なのではないかと思います。

読んでいると文章から森などの自然や光など、どこか神聖で厳かな雰囲気の不思議な情景が頭に浮かんできます。人と自然が共存している時代の物語、という印象です。

まだ科学や文明が発達していなくて病気の仕組みなども解明されておらず、どうして人は病気になるのか、誰が罹るのか、理由はあるのか…という、とても根本的な視点から病気について書かれていて、とても新鮮でした。

屈強で孤独な男と、親を失った幼子の物語

物語は、かつて独角という戦士の頭として戦っていたヴァンという男が、今では囚われ奴隷として岩塩鉱で働かせられているところから始まります。

ある夜、ヴァンが囚われている岩塩鉱に、山犬が襲い入ってきます。よほどのことがなければ襲い掛かってくることのないはずの山犬が、岩塩鉱に繋がれた奴隷たちを次々に襲い、ヴァンも腕を噛まれてしまいます。

それから数日のうちに、山犬に襲われた岩塩鉱の人々はどんどん倒れ息絶えていきます。そんな中なぜかたった一人生き残ることが出来たヴァンは岩塩鉱から逃げ出します。

そして、ヴァン以外の唯一の生き残りである幼子と出会います。

数十人もの人間が暮らしていた岩塩鉱で、たったふたりだけ生き残ったのか。
手を差し伸べると、しばらく、その手を見ていたが、ひと見知りをしないたちのようで、やがて、小さな手を差し出してきた。

幼子をユナと名付け、逃げるため、生き抜くためにヴァンはユナを連れて旅立ちます。

作者の文章力が素晴らしい作品!

物語は伝染病が大きなテーマの一つとなっていますが、なかなか専門的に詳しく描写されています。

本作を読み始めた時は少し難しいかも…と感じたのですが、作者の文章力に多大に助けられ、難なく読み進める事が出来ました。書いてある内容は確かに専門的で難しいのですが、丁寧にわかりやすく、しかも物語の邪魔は全くせずに書かれているので、いつのまにか夢中で読んでいました!

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
著者: 上橋 菜穂子
ISBN:4041018889 / 発売日:2014-09-24
出版社.: KADOKAWA/角川書店

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