産婦人科を舞台にした新しい命の重みとは | [書評]透明なゆりかご(3)

透明なゆりかご(3)
著者: 沖田 ×華
ISBN:4063409856 / 発売日:2016-04-13
出版社.: 講談社

最近、ニュースで子どもに関する問題を耳にすることが多い。

若い人は自分には関係ないと思う人もいるだろう。だが、将来子どもを持つか否かに関わらず、私たちは誰しも母親から生まれてきている。

その時どのようなドラマがあったのか、知る人は少ないだろう。漫画『透明なゆりかご』では、産婦人科を舞台に母親とその家族と新しい命の重みが描かれている。

家族になることの難しさ

第16話『妊娠中毒症』では、本当の意味で家族になることの難しさがテーマになっている。妊婦の藍子とその義母のあつ子は仲の良い家族として評判だった。

藍子が妊娠し、妊娠中毒症になりかけてからは、あつ子が家事を全て行うようになる。藍子の買いたいものも、代わりに買ってきてあげるという徹底ぶりだ。夫もお腹の子どもを心配し、家事は母親に任せるように勧めてくれる。

そんな環境で過ごすうちに、藍子の中に芽生えたのは、赤ちゃんを一人で産みたいという気持ちだった…。

家族になるというのは、きれいごとだけではない。産み育てた自分の子どもでさえ思い通りにはならない。それを考えると、違う環境で育った他人と新しく家族になるというのは想像以上に難しいことなのかもしれない。

ただ、それでも本音を言い合うことで、きっと家族になることができる。そんな可能性を信じたいと思える話だった。

中絶手術がテーマの21話

第21話『院長先生の祈り』でピックアップされるのが、主人公の働く産婦人科の院長である下崎だ。彼は体育会系の見た目通りの、豪快で優しい性格のため、ナースたちはもちろん妊婦たちにも慕われている。

分娩中の妊婦に、目を開けながらいきませるため、自分が目を思いっきり見開いて実演してしまうほどだ。余談だが、この方法はお手洗いでいきむときにも効果的なのでおすすめしたい。

そんな彼には妻と、なんと6人もの子どもがいる。自分の子どもで野球チームを作ることが夢だそうだ。一昔前の有名人が結婚会見で、野球チームが作れるほどの子どもが欲しいと語ることがあったが、本当にチャレンジするとは驚きである。そんな彼は7人目の子づくりに励もうとするが、子育ての負担に耐えられない妻は実家に帰ってしまう。

またこの話では、彼の中絶手術に関するポリシーを通じて、強い使命感を感じることができる。例えば、自分の好きな仕事をしている人でも、その中の全ての業務が好きという人は少ないと思う。

それは院長の下崎も同じで、お産だけではなく時には中絶手術を行うことも避けられない。子どもが大好きな彼にとって、これほど辛い仕事はないだろう。しかし、丁寧な中絶手術をすることで、将来その女性が望んで子どもを妊娠・出産できることにつながるというのが、彼の持論だ。

自分の望まない仕事であっても、大切な目的のためにしっかりとこなす。この考え方は大切にしたいと思った。

透明なゆりかご(3)
著者: 沖田 ×華
ISBN:4063409856 / 発売日:2016-04-13
出版社.: 講談社

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