いつかは無くなるということ | [書評]まく子
西加奈子作品で繰り返し描かれてきたテーマ
直木賞作家、西加奈子の新刊『まく子』。物語の舞台は小さな温泉街、主人公は小学五年生の男の子だ。その温泉街に引っ越してきた少女との恋、主人公の成長を描くストーリーとなっている。
これまで、多くの西加奈子作品で繰り返し描かれてきた「大人にならなければいけないということ」「いつかは死んでしまうということ」がこの作品でも描かれている。ただ、そのテーマはこれまで以上に濃密に、壮大なスケールで描かれているように思えた。
大人にならなければいけない
主人公は、周りの男子達が急に自分のことを「俺」と言ったり、それまで怖がっていたものを怖くないと言い張ったりするような、そういうことをひどく恥ずかしいことだと思っている。
かつて父親が浮気したことが周りの友達にバレて苦い経験をしたこともあり、そんな恥ずかしい大人になりたくないと思っている。その反面、自分の体は大人の男に近づいていく。大人になることは、死に近付くことでもある。
世界のシステム
ここまでの話は、これまでも西加奈子作品で描かれてきたし、他の思春期を描いた作品でも取り扱われてきたテーマだろう。この物語で描かれる「祭」の存在がキーとなる。
その祭は、子どもたちが何ヶ月もかけて一生懸命作った神輿を、祭の日に大人が一斉に壊す、というものだ。実際にそんな祭があるのかはわからないが、この祭に命は見事にリンクする。せっかく一生懸命育てても、壊される運命である神輿と、成長しても死んでしまう運命である自分の命。だったらなぜ成長しなければならないのか。
そう言った主人公の思いは、ラストで見事に昇華される。生と死というテーマは誰もが一度は考える問題であり、当たり前といえば当たり前だが、理不尽な「世界のシステム」の一つでもある。それとどう向き合っていくのか、その一つの答えがこの物語の中にある。
中学生になる前に読んでみたかったと思える話だ。そして、今後、悩んだときに読み返したくなる話でもある。