「将来ある若者」が「貧困世代」となった社会構造の理不尽に暗澹とする | [書評]貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち


「貧困世代」とは何か

真っ赤な帯で大きく「結婚、出産なんてぜいたくだ」と訴える。

貧困生活を強いられる若者が増えている。原因となる社会構造について様々な角度から分析している。

諸事情で就職できなかった、就職できてもブラックや家庭の事情で仕事を辞めてしまった後は「普通」に家庭をもち定年まで働くという生活はもはや不可能となり貧困に陥いる。

現代の若者たちは一過性の困難に直面しているばかりではなく、その後も続く生活の様々な困難さや貧困を抱え続けてしまっている世代

著者は「貧困世代」をこう定義し、実例、教育格差、住宅問題、現在の社会の無理解を論じている。また最後にこの状態を解決していくには何をすべきか若者たちへ向けて提言している。

また、貧困世代の若者に対して現在はこう疑問を投げかけている。

若者に対する社会一般的な眼差しが、高度成長期のまま、まるで変わっていないのではないだろうか。

貧困世代を「監獄から出られない囚人たち」とし、若者が閉じ込められた「監獄」の社会構造とは何か論じている。

困窮する現代の若者たち

所持金13円で栄養失調で倒れる寸前になった男性、精神疾患で生活保護を受けバッシングされる女性、ブラック企業でうつ状態になった男性、母子家庭だが母親に生活能力がなく働きながら定時制に通う女子高生、家賃が払えず脱法ハウスで生活する男性。

これは決して特別な事例ではなく誰にでも起こりうる現実なのだ。

過重なサービス残業を強いるブラック企業、賃貸の高い家賃、奨学金などが若者を困窮に追いやる。もはや自己責任や努力不足だから貧困に陥るのではなく、行き過ぎた資本主義、無関心な高齢者層がが若者たちを追い詰めているのである。

奨学金という借金で教育の貧困の連鎖

大学の学費が年々高騰している。しかし年収の低下、非正規雇用が拡大している。

年功賃金、終身雇用のないところで、私費負担で学費をまかなうことはもはや無理だ

著者は奨学金についてこう語っている。しかし大卒でなければ企業への就活もままならない。

私の場合は親が学資保険で毎月数万づつ積み立ていた。それが可能だったのは父は大手上場企業に勤務し毎年安定した収入と勤続年数が上がるほど給与も昇級していたからだろう。しかし現在は学費を負担できない家庭は奨学金に頼らざるをえない。

少子化対策の認識ずれと貧困な住宅政策

少子化を解消する施策を議論する文脈において、子育て支援や保育の拡充を持ち出すことに、どのような意味があるのか。

貧困世代の若者には結婚なんて贅沢だと著者は言う。住む場所の確保すら厳しいのに家庭を持つことすら考えられないのだ。子育て支援、保育の充実はもちろん将来のために必要なことだ。しかし貧困世代はそれ以前の問題で住居費も払うことが厳しい状況だ。

「住宅は最大の福祉制度」であると著者は言う。日本の住宅政策は終身雇用で住宅ローンを支払い資産とすることを前提としている。しかし今や終身雇用は崩壊しており、貧困な若者が高騰した住宅を購入なんて到底できない状況だ。

民間の賃貸は敷金、礼金、鍵交換、クリーニング代等様々な名目で初期費用が高くて引っ越しも簡単にはできない。また2年毎に更新料と住宅保険第を支払わなければならない。

この負担に耐えられなければ、ホームレスか劣悪な住環境に追いやられてしまう。著者が若者にアンケートをしたら4人に1人はホームレス経験があるという。

公団の低所得若者物件の拡充、地方の空き家活用、低所得者への家賃補助など生活保護以外にも早急な住宅対策を早急にするべきだ。まず住居にすむことができれば、その先の結婚、家庭を持つという意識も高まり少子化対策になるだろう。

貧困世代の解決のためになすべきことは

高齢者世代は高度成長時代を過ごしてきた。学歴はなくとも金の卵と言われ集団就職ができ、モノを作れば売れ、給料は毎年上がり住居を購入しローンを支払うことができた。しかし現在社会構造、雇用環境は大きく変わっている。

教育機会、賃金体系の不平等、社会保障の再分配の不公平について怒りの声をあげ改革を訴える必要があるだろう。若者もユニオン、組合等に加入しブラック企業の不正等は訴えていくべきだと著者は述べる。

現在自公政権は過半数を超え安定しており、積極的に選挙に参加する高齢者優遇は簡単には変わらないだろう。しかし今後は選挙権も18歳からとなり若者が増える。

若者たちが貧困世代なのはけっして努力不足でなく、社会構造の不平等によるものなのだ。まだ若者たちは大人しすぎる、教養不足を感じる。もっと本を読み社会の事を学んで欲しい。

例えばこの本で格差社会の概要をつかみ、さらに気になる項目に関連する本を読み知識を広げるのもよい。そうすれば現在の若者に対する社会構造、雇用環境の不備を認識でき、改革を訴えることもできるだろう。

一人ひとりは無力でも自ら声をあげることが改革の一歩となるだろう。


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