人物描写が斬新。幕末の歴史小説 | [書評]暁のイーリス

暁のイーリス
著者: 内堀 優一
ISBN:4042560113 / 発売日:2016-03-15
出版社.: KADOKAWA/メディアファクトリー

幕末を舞台にした小説は数多いが、この小説は主人公が一介の町飛脚である「熊八」という架空の人物になっているのがユニークだ。ある事件を境に「誰よりも速く走れる足」と「天命を見る力(いわゆる未来予知)」を手に入れた熊八が、幕末の風雲児こと坂本龍馬と出会い、激動の幕末を駆け抜ける、文字通り疾走感溢れる物語である。以下でこの本の魅力をいくつか紹介しよう。

人物描写が斬新

この小説には幕末の偉人達も数多く登場するが、私達が普段目にする小説やドラマ等とは一味違った人物描写をされている。特に顕著なのが坂本龍馬と西郷隆盛(劇中では吉之助)だ。龍馬は歴史に名を残したい、という大望は持っているが特に秀でた能力も無いごくごく平凡な若者で、西郷は犠牲を厭わず維新を推し進める冷酷な策士として描かれている。以下に劇中の西郷の台詞を抜粋しよう。

「大久保、おまえの言う通りだ。あの男には、人を物のように切り捨てるという事ができない。だがな–坂本はその事に気付いている。」

庶民の視点から見た幕末

諸藩の事情。幕府の情勢。武士たちの信念―そういった物を知るはずもない熊八に、今この国がどうなっているのかを理解しようとするのは酷だった。

上記の引用でもわかる通り、主人公の熊八はあくまで一庶民である。人より秀でた能力は持っているものの、尊皇攘夷という言葉の意味も良くわかっておらず。倒幕に関してもお上が幕府から別の何かに変わる、という程度にしか考えていない。幕末を描いた物語と言えば武士や志士が主人公のものが多いため、庶民の目から見た幕末という視点は新鮮である。そして良くわからないながらも江戸に迫る危機を回避するためにひた走る熊八の純粋さが胸を打つのだ。

激動の時代を純粋にひた走る熊八と、彼と関わる偉人達が織りなす物語は今までの幕末ものとは一味違った魅力を持っている。歴史好きは勿論の事、普段歴史小説をあまり読まない方でも楽しめる、おすすめの一冊である。

暁のイーリス
著者: 内堀 優一
ISBN:4042560113 / 発売日:2016-03-15
出版社.: KADOKAWA/メディアファクトリー

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