宿命を背負った者たちのドラマ | [書評]夢幻花

夢幻花
著者: 東野 圭吾
ISBN:4569765602 / 発売日:2016-04-07
出版社.: PHP研究所

主題は、宿命と因果性

東野圭吾さんの作品で、事件物ですが、トリックものではありません。裏表紙にも次のように書いてあります。

宿命を背負った者たちの人間ドラマが展開していく。

なので、人間ドラマの小説としてオススメです。ミステリーとしても、話の筋は通っていますが、ある花に関する特徴を知らないと、推理はできません。少なくとも私には犯人当ては無理でした。なので、ミステリーとして読むのではなく、人間ドラマとして読んでもらいたいです。

この作品は、ある宿命を背負った人たちの物語です。そこに殺人事件が絡みます。そして因果性により、それぞれの宿命を持った人たちが繋がり、ストーリーが展開します。この因果性による人々の繋がり、単純には関連づけですが、ミステリーとしては少々無理やり感があります。批判的に読めば、「そこまでの偶然はやりすぎ」と思うでしょう。しかし、この作品としてはアリなのです。なぜならば、人間ドラマだからです。

ちょっぴり青春物語

主人公が、大学院生の男性(蒼太)と大学生の女性(梨乃)なので、印象に残るのは二人の成長であり、まるで青春小説です。殺人の犯人探しを通した二人のやりとりが、この本のドラマ性のハードルを低くしてくれています。つまり、読みやすいわけです。最終的に二人に良い未来が見えるように終わっているので、ほっこりします。

原発に対する作者の考え

ストーリーが展開される時期は、東日本大震災後であり、蒼太が原子力工学専攻の博士課程であることを用いて、今後の原子力技術者の扱われ方や今後期待する姿に対する作者の考えが、この作品を通して述べられているように感じます。東野作品の「天空の蜂」では原子力発電所のリスクをテーマにしていますので、作者の原子力発電に対するこだわりが感じられます。

最後に

内容は、重厚というわけではなく、読み物として一気に読める内容です。ただし、冒頭は少々気が重くなるシーンから始まりますので、私は最初滅入りました。しかし、そこを越えると、青春小説に突入ですので、最後まで一気です。

夢幻花
著者: 東野 圭吾
ISBN:4569765602 / 発売日:2016-04-07
出版社.: PHP研究所

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