殺人者になるか否かは、意外と紙一重化も知れない | [書評]ハサミ男

ハサミ男
著者: 殊能 将之
ISBN:4062735229 / 発売日:2002-08-09
出版社.: 講談社

もう読むことは出来ない殊能将之の名作。

私はよくミステリー小説を読むのですが、このハサミ男ほど衝撃を受けた作品はありません。物語の主人公は犯人であるハサミ男。彼の視点で物語は進むのですが、同時に警察視点での話も進んでいきます。

あらすじとして、女子高生に文房具のハサミを突き刺して殺す連続殺人鬼ハサミ男。ハサミ男は決まって女子高生で頭が良く快活な女の子の首に、尖らせたハサミを突き刺して殺しています。暴行の後もなく、被害者同士の接点もない。なぜ殺すのか分からない。世間はハサミ男が恐怖の象徴になっています。この事態を終息するために警察ではマルサイと呼ばれる犯罪心理分析官を呼び、ハサミ男逮捕に向けて動き始めますが、、。というストーリーです。

殊能将之さんの処女作ということもあり、読みやすい文体で書かれています。また犯人側を描くときには何ともいえない理解しがたい感覚を味わいます。ハサミ男は主人格ともう一つの人格と会話を良くするのですが、その会話がブラックユーモアたっぷりで、ちょっとした漫談のようです。ハサミ男がなぜ人を殺すのか、読むにつれて分かるのですが、理解しがたいようで、少し気持ちが分かる。そんな皆が持っている人の心の暗い部分を思い出させる描写が心を少しずつ抉ってきます。

殺人者になるか否かは、意外と紙一重化も知れない

もう一つの人格がこのような事を言うのですが、

人を殺人から遠ざけるのは、ほんのちょっとしたかとなんだよ。死を目の当たりにしたときの不快感、血の臭いをかいだときのいやな感じ、死体に触れたときの不気味さ

これを読んだときに、よくニュースで簡単に人を殺す人が理解できないと思っていたのですが、私たちと犯人側の違いって何もなく、ただ、殺してしまったあとの不快感、不気味さを感じるかどうかだけなんだと感じました。それが怖くて、自分も簡単にそうなってしまうのでは、と恐ろしくなりました。

また作者の殊能将之さん、何年か前に急にお亡くなりになられてもう新作を読むことはできません。

彼の話はびっくりするどんでん返しも売りでしょうけど、人間の心の隙間にこびりつく悪の気持ちを揺り動かすのが上手いと思います。読んだ後にはちょっと違う考え方になっているかもしれません。

ハサミ男
著者: 殊能 将之
ISBN:4062735229 / 発売日:2002-08-09
出版社.: 講談社

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