人と古書の物語 | [書評]ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち
著者: 三上 延
ISBN:4048704699 / 発売日:2011-03-25
出版社.: アスキーメディアワークス

どんな話なの?

極度の人見知りだが、とても綺麗で古書の知識を抜群にもち「ビブリア古書堂」の店長である篠川栞子(しのかわしおりこ)。彼女のもとへ舞い込んでくる古書と人との不思議な事件を解決していく物語。

舞台は鎌倉。就職できなかったフリーターの五浦大輔(ごうらだいすけ)は祖母の遺品である古書を鎌倉の片隅にひっそりと佇む古書店「ビブリア古書堂」に売りに来た。店主・栞子は、そこに書かれた直筆のメッセージをもとに、五浦やその家族の知られざる秘密を解き明かしていった。

それ以降、「ビブリア古書堂」で働くことになった五浦と栞子が、次々と舞い込む古書にまつわる事件を解決していく。

古書と人

主人公の五浦は、本が全く読めない。本を読むと気分が悪くなってしまうという。一方、栞子はまさに本の虫で、特に古書に対する情熱や知識が半端ではない。普段は人見知りなのに、古書にまつわる話をするときには周りが見えなくなるほどに饒舌になる。栞子は、本の読めない五浦に対して古書に関する知識を話して聞かせる。

「わたし、古書が大好きなんです……人の手から手へ渡った本そのものに、物語があると思うんです……中に書かれている物語だけではなくて」

この本を読むと、栞子がそう言うように、古書にはその持ち主の物語や、著者の物語などさまざまな物語が寄り添っているように感じられる。文学作品をあまり読んだことがない人でも問題なく楽しめるだろう。

私自身も文学作品はほとんど読まないが、栞子の語りによって太宰治などの文豪の生活や思いが少しだけでも感じられたように思う。読者にそう感じさせられるほどに、栞子の古書に対する情熱が深いのだろう。

本が織りなすミステリー

亡くなってしまった人にはもう話は聞けない。しかし、その人の持ち物はその人のことを近くで見ている。思いが詰まっている場合も多い。この本では、その持ち物が「古書」なのである。

古書を中心にして、本当は何が起こっていたのか、何を抱えているのかを解き明かす過程は、専門的な話でもあるのに、全く飽きさせない。古書がもつ歴史に感銘を受ける。

古書であるだけに、価値の高いものも多く登場し、それを争う人々の醜さや苦悩や熱い思いなども描かれている。本が中心のようではあるが、それを取り巻く人たちの人間模様が読む人の心にすーっと流れ込むような物語である。

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち
著者: 三上 延
ISBN:4048704699 / 発売日:2011-03-25
出版社.: アスキーメディアワークス

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