ホセ・ムヒカの質素の哲学 | [書評]世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉


世界を感動させたスピーチ

2012年6月、リオデジャネイロで行われた国連の会議で、南米の小さな国ウルグアイの大統領、ホセ・ムヒカのスピーチが、聴衆を深く感動させ、その言葉は世界を駆け巡りました。

貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ

現代の消費文明に対する痛烈な批判です。特にこの言葉は、日本人にとっても共感しやすいものだったと思います。エピクロスやセネカ、先住民族の人たちの言葉であるというこの古くからの言葉に、思わず心を射抜かれてしまいます。

人間は幸せになるために生まれてきて生きている、とムヒカは言います。それなのに、消費のために時間を奪われて、今の文明社会の人間たちは、本当に幸せに生きていると言えるのか。その問いかけは的を射ています。

質素の哲学

私は貧乏ではない。質素なだけです。

ホセ・ムヒカはウルグアイの大統領として、官邸に住むことを拒否して、動物たちと農場に住んで、月10万円で暮らしています。

大統領としての給料のほとんどは貧しい人たちのために寄付しているということです。「世界でもっとも貧しい大統領」と呼ばれる彼がこの質素な生活を選んでいるのは、自由という大切なものを失わないためだ、と彼は言っています。

日本には古くから「足るを知る」という言葉があり、ミニマリズムの生き方は伝統的に人をひきつけているので、彼のような清貧の生活を好ましく思い、共感する日本人は多いのではないかと思います。

世界でもっとも貧しい大統領

ホセ・ムヒカは、若いころに国を変革することを夢見て、反政府活動に関わり、何度も投獄されて、なんと14年間の獄中生活を体験しています。

マンデラ大統領ほどではないですが、人生の多くの時間を獄中生活で過ごしたわけで、苦労人なのですが、優しげで穏やかな笑顔はそんな苦労を感じさせません。彼がその人生をかけて実践してきた質素の哲学が、心にしみ入る言葉となって、この本の中に詰まっています。

ホセ・ムヒカの言葉に触れていると、物質を追い求めている消費文明の中で生きていることが、意味のないように感じられてきます。本当の豊かさとは何なのか、本当の幸せとは何なのか。物を持たない質素な暮らしこそ、人を自由にしてくれて、時間という大切なものを与えてくれ、幸福にしてくれるのではないか、そんなことに気づかされます。

無欲に生きて、幸せを手に入れる、そういう考えに触れるのも、心が洗われる感じがします。


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