スマホの開発・リリース・運用フェーズで把握すべき法律たち | [書評]アプリ法務ハンドブック
アプリがらみの法律はいろいろだけど面白い
この本は、WebアプリやiOS、Androidなどのスマホアプリなどを提供する時に考慮しないといけない法律について書かれています。著者の方たちが、IT専門の弁護士さんや、有名IT企業の法務担当者さんなどですので、具体的かつ実務的で有効性が高いです。
一番良いのは、この手の法律本にしては全く小難しくなく、単なる読み物としても十分に面白いです。
例えば、第1章の「アプリ開発前に知っておくべき法律」の中の著作権についての記述の中には、DeNAとGREEの釣りゲームの訴訟や、gloopsとコナミデジタルエンタテインメントのプロ野球選手カードの訴訟について書かれていて、読んでいて、「ほほう、そんなことがあったのか」と楽しませてくれます。
ピカチュウもスーパーマリオも商標についての記述で登場しますよ。
アプリとして守らなければならないこと
この本のはしがきに、この本の目指すところが簡潔に書かれています。
実務経験を踏まえ、アプリサービスを企画・開発・運営する上で遭遇するであろう問題点に沿って、少なくともここだけは気をつけておくべきという法的チェックポイントとその解決策を提示しようと試みた
その通り、本書の中には、考えられるアプリの法律的注意点とその対応策が多々書かれています。
私もiPhoneアプリをリリースしていますが、この本を参考にしました。もしこの本がなかったら、法的に問題なしと言い切れる自信のあるアプリになっていたかどうか、相当に怪しいです。
なので、Webアプリ、スマホアプリはもとより、部分的にはサーバーアプリケーションの開発者の方たちも読んでおいた方が良いです。
ある程度、大きなIT企業では著作権について教育が行われていますが、再確認するだけでも安心できます。自分の認識があっていたということを。
開発・リリース・運用フェーズで理解すべき法律
この本は、下記の3つに分かれています。
・第1部:アプリ開発フェーズの法律知識
・第2部:アプリ提供フェーズの法律知識
・第3部:アプリ運用フェーズの法律知識
それぞれ、先に書いたように必要な法律が網羅され、具体例を使って分かりやすく解説されています。
私が、スマホアプリ開発者として「ふむふむ」と思ったのは、第1章の「フォント」に関する記述です。音楽とかなら著作権との関係が分かりやすいのですが、フォントには癖があるので一読の価値があります。
その他には、アプリ利用者の個人データの扱い方や特定商取引法への対応がちゃんと書かれています。
第2章は、「アプリ開発にあたり確認・締結が必要な文書とルール」ですが、AppleとGoogleのデベロッパー規約、オープンソースソフトウェア(OSS)の利用規約によって、課せられるアプリ提供者(多くの場合、開発者)への制約が示されています。AppleやGoogleの規約をちゃんと読んでいない方!、ここで読んでおきましょう。ただし、規約は改版されるので正しくは開発者サイトで読んでくださいね。
本書で最も使える、アプリ利用規約について
第3章では、アプリ利用規約について、第4章ではプライバシーポリシーについて書かれています。そして嬉しいことに、それぞれサンプルが書かれています。アプリ開発者の方はぜひ流用しましょう。アプリのユーザーさんは、簡単にこれらの規約を知る必要があります。
その他、関連法についても紹介あり
第8章からは、第3部 運用編ということで、未成年者対応、出会い系サイト規制法、児童被害の防止などユーザーの被害防止について書かれています。第9章では、景品表示法などの広告絡みの内容になっています。運用編に描かれているこれらの内容は、アプリ運用において、法的には規定されていても、運用者によっては利益追求のため、軽視しがちだと私は思います。
しかし、ユーザーを守るためにも、良識あるアプリを提供する私たちは、ちゃんと理解しておかなければならないのだと、改めて教えられます。例えば、ガチャアイテムは「懸賞」による「景品類の提供」か?なんてことについてコラムの中で説明してくれています。
最後に
OSSについての法律解説Webページや著作権についての本などなど、アプリ開発者や運用者が知っておかなければならない法律や、ユーザーに提供すべき記述は多々あるわけですが、この本はそれらをアプリに限定してまとめてくれています。
アプリ開発を始める前のフェーズとして、「この本を読む」というステップをプロジェクトで規定することをお勧めします。