ネットで知り合った少女のみを狙った連続殺人 | [書評]分冊文庫版 ルー=ガルー《忌避すべき狼》(上)


登場人物は十四歳女子たち

オンラインで、ヴァーチャルであることが当たり前になっている近未来で、実際に人と人が出会って殺人が起こる。人間同士のリアルな接触さえ珍しくなっている世の中でなぜ──そんな物語です。そして、巻き込まれるのが十四歳の女子学生たち。

「昔、オンエア情報受信する機械はオンラインの端末と別だったんだって」

ふうん、と歩未は興味なさそうに反応した。

「しかも受信専用機が普通だったみたい。そのうえ、音声情報専用受信機とかまであったんだって。音声受信だけだぜ。すげぇ無駄。勿論受信機だから発信も計算もできないの。オンラインの通信も音声だけだったみたいだし」

「音だけ?」

それは──不安だ。
目が見えないのと代わりがない。

京極夏彦氏にしては珍しい舞台設定と登場人物です。百鬼夜行シリーズ(京極堂シリーズ)以外はあまり読んだことがないという人にこそおすすめしたい物語です。

というのも、舞台設定と登場人物は確かに百鬼夜行シリーズからかけ離れていますが、キャラクターたちの性格付けや動き方は、やはりおなじみのシリーズを連想させるからです。

ちょっと内気な「普通の女の子」葉月。中性的でクール、しなやかな野生動物を連想させる歩未。十四歳にして大学院博士課程のカリキュラムをこなす天才ながら、常識があやしい美緒。この三人が現実味のなくなったリアルを駆け回るのです。

ヴァーチャルな世界の創造を想像する

人によっては、この舞台設定が呑み込みにくいという向きもあるようです。が、SFやライトノベルを何作か読んだ経験がある人になら、さほど難しい設定でもありません。

時間の遡行ややり直し、瞬間移動みたいなものを、「マホー(魔法)」だと言い、美緒は、葉月の家のセキュリティカメラのデータをいじって、自分がその場にいなかった証明を作り出します。

「でも、変な理屈つけなくたって机上ならどうにでもなるだろ。あたしは空を飛びました、過去旅行しましたって、口でなら言えるし文章にもできる。それが大昔の人のやりかた。つまり、マホーだね。昔の人はその大昔のマホーを現実にしようとして、飛行機作ったり電波飛ばしたりしたんだろうけど、所詮は不細工だろ。根本的には手出しができない。どうやっても万能のマホーが使えない。だから──きっと考えたんだ」

「何を?」

「だから今の世の中をさ。今みたいに世界を全部数字に置き換えること」

「数字にっ──て?」

数字じゃんと言って美緒はモニタを指さした。

「これは全部信号だもの。画だって字だって元は数字の配列だから。あたし達は数字の配列見てこの世界を理解してるんだ。なら──マホーは使い放題だぜ。数字並べ換えれば、あたしは百五十歳の年寄りにもなれるし男にだってなれる。たった十何分の間の存在証明を消すくらい、簡単なことさ」

やらない手はないだろう──そう投げ遣りに言ってから美緒は食卓に顔を向ける。

年齢にふさわしくない、おそろしいほどの才覚を持ちながらも、「鯨は貝を食っている」などと言ってしまうような、ちょっとズレた美緒は榎木津を彷彿とさせるし、言葉少なながらも物事の本質をつかんで必要最小限の動きをしようとする歩未は中禅寺を思わせます。そんな二人の言動におろおろとする、一番普通の少女・葉月は関口の役回りかもしれません。

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この「ルー=ガルー《忌避すべき狼》」が単行本として出版されたのは2001年ですが、それから10年経った2011年に、しれっと続編が出ています。「ルー=ガルー2《インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔》」と題されたそれは、「忌避すべき狼」の内容をまるっと伏線のように扱って、少女たちの物語をさらに深めてくれます。

分冊文庫版なら2作各上下巻で都合4冊。お休みの日にどっぷりと浸かってみるのもいいんじゃないでしょうか?


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