原発事故の可能性を、別の視点から指摘する問題作 | [書評]天空の蜂

天空の蜂
著者: 東野 圭吾
ISBN:4062639149 / 発売日:1998-11-13
出版社.: 講談社

福島第一原発の事故を踏まえて、改めて読んでもらいた一冊

原作は、ベストセラー作家の東野圭吾さんです。私は、彼の著作の内、もっぱら推理物と人情物が好きですが、本作品はハラハラドキドキ部類のサスペンスです。2015年に映画化され、文庫本化、さらには最近新装版も発売されています。

私は以下の理由で本作品を購入しました。
・原発に対するテロがテーマ
・使用されるのが無人の超巨大ヘリという非現実的な面白さ
・福島第一原発事故との関連性

裏表紙の概略を引用すると以下です。

何者かに奪われた無人の超巨大ヘリコプターが静止したのは、稼働中の原子力発電所上空だった。犯人の要求は日本中の原子炉を破壊すること。

私は、この本に書かれた方法でのテロは、現実的とは思えないですし、小説のためスリルを盛り込まなければならず、さらに現実離れしていると思います。しかし、方法や状況はともかく、原発関係者は、地域住民は、そして政府はどう対応するのかを考えるいい機会になると思います。

福島第一原発事故の16年前に出版されていた事実

単純には、テロリストと戦う自衛隊や警察の話になっていまいますが、その奥は深く、原発賛成・反対の考えにも触れた社会性のある本です。

現在では原発に対するテロの可能性は、不安定さを増す日本の周辺状況から、普通に議論されている話になっていますが、本書が出版された1995年に、偶然ではあるにしろ、作者がこのテーマで作品を出版していたことにびっくりさせられます。不幸なことに福島第一原発の事故があり、1995年とは状況が違ってしまいました。本書と同じ方法でのテロがあるとしたら、あなたはどのように政府は対応するべきだと思うか?一度考えてみる機会となるのではと思います。

犯人の苦悩と警察の執念

原発テロという、現実的課題をいったん横に置いて、サスペンスものとしても十分読んでいて面白く、また悲しく書かれています。全体的には、やや冗長すぎると私は思いますし、ストーリーも少々無理やり盛り上げているところがありますので、細かなところは、斜め読みでも良いと思います。しかし、犯人の動機に対しては同情してしまいます。

最後に

この本の存在意義は、福島第一原発の事故を知る私たちが、原発テロに対してどのように考えるのか、さらには原発の存在価値は何であると考えるのか、読者に考える時間を与えてくれることにあると思います。

天空の蜂
著者: 東野 圭吾
ISBN:4062639149 / 発売日:1998-11-13
出版社.: 講談社

あわせて読みたい