重力波観測の「エピローグ」が感動もの | [書評]重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち


「重力波」という宇宙物理学についてではなく、人間ドラマの本

2016年2月にアメリカで発表された「重力波の観測に初めて成功」のニュースを覚えている方は多いと思います。私は、NHKのサイエンスZEROまで見ました。宇宙に興味が無くて、ふーん、と流された方も多いかも。

重力波は、アインシュタインの一般相対性理論で予測されたもので、二つの重い物質(ここではブラックホール)が衝突して一つになった時、その質量変化が波として伝わるということです。

ここ重要です。本書は、重力波についての解説本ではありません。その辺は、今後出版されると期待されるブルーバックスなどにまかせましょう。本書は、重力波観測に尽力した多くの人々の人間ドラマを描いたノンフィクションです。物理学の公式は全く登場しません。

LIGOは、二つのどでかい観測施設を作る必要があった

本書は、重力波のアイデアが生み出され、重力波の検出プロジェクト「LIGO(ライゴ、Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)」の始まりから、重力波検出の瞬間までを時間を追って、その間に関わった多くの人たちの物語を通して、ノーベル賞確実と言われるこの偉業を描いています。本当に多くの人が登場します。

まずは、重力波観測のアイデアを生み出したライナー・ワイス教授の足跡から始まって、その後に関係する多くの研究者の物語が続きます。その人たちがどのような生まれで、どのようにLIGOに関わり、どのように他の人たちとの関係があったのかを、詳細な調査やインタビューから、著者は本書を執筆しています。それにより、登場人物の描写が生き生きとしています。当然、確執もあったのです。

LIGOは、二つのどでかい観測施設を作る必要もありましたから、お金も必要だったこともわかります。長期のプロジェクトですから、統括責任者も途中で変わっています。

重力波観測の状況は、最後の章「エピローグ」に書かれています。重力波を観測した時の状況がドラマティックに、しかし正確に書かれています。

重力波観測の「エピローグ」が感動もの

まず、LIGO自体は宇宙物理学ですが、その前に米国で中心だったのは核物理学、つまり核爆弾の開発です。最初の方に、マンハッタン計画と広島、長崎への原爆投下の話が出てきます。

宇宙物理学の上で、核融合の果てに起きる重力崩壊がつまりは重力波を起こすことになるので、原爆(核分裂反応を使います)と重力波観測が無関係ではないことに、深く考えさせられます。

LIGOは、カリフォルニア工科大学(カルテク)とMITの共同プロジェクトです。複数のこだわりの深い研究者が絡みますから、確執もあります。プロジェクトから追い出された人もでます。艱難辛苦が伺われます。

ちなみに、LIGOのOの時が発端でプロジェクトを危うくする話が書かれています。そして、何と言っても重力波観測の「エピローグ」が感動ものです。

測定に使用された干渉計の構造についても

本書の最後の「訳者あとがき」もぜひ読んでください。重力波発表直後の日本の状況が書かれています。測定に使用された干渉計の構造については、最初の方に簡単に書かれていますので、興味のある方はどうぞ。


あわせて読みたい