あなたなら、ぬいぐるみの手術を受ける?これまでのシリーズとは一味違う | [書評]ドクターぶたぶた

ドクターぶたぶた
著者: 矢崎 存美
ISBN:4334773168 / 発売日:2016-07-12
出版社.: 光文社

執刀医は、ぶたのぬいぐるみ!?

ある日、あなたが「胃がん」を宣告されたとしよう。担当の医師が、神妙な顔をしてこう告げる。「執刀医の先生は、山崎ぶたぶた先生になります。それでですね、実は山崎先生は、ぬいぐるみなんです。」

内心、あなたはこう思うに違いない。「・・・大丈夫なの、この人?」しかし、担当医は大真面目である。そんなあなたの目の前に、バレーボールくらいの桜色のぶたのぬいぐるみが白衣を着て、歩いて登場する。あなたは混乱する。もしかしたら、自分の病気のことすら忘れてしまうかもしれない。

そんなあなたにむかって、可愛らしいぬいぐるみはこう言うのだ。「執刀医の山崎ぶたぶたです。よろしくお願いします。」この物語は、ぬいぐるみの医師「ドクターぶたぶた」と、混乱する「4人のあなた」とのお話である。

一歩踏み込んだ感のある今回の作品

アニメの「ドラえもん」の世界において、ドラえもんを見て「なんでこんな生き物が存在するの?」と驚く登場人物はいない。ある意味それはお約束なのである。

この「ぶたぶた」シリーズは、すでに何冊もの本が出版されており、人間のように動いてしゃべるぶたのぬいぐるみ「ぶたぶたさん」が、毎回違った職業に携わっており、しかも、その仕事を完ぺきにこなすというのがお約束である。

同時に「なんで、ぶたのぬいぐるみが動くの?」と驚く人と、それをあたりまえのように受け入れている人とがいて、次第にあたりまえだと感じる人が増えていくというのも、またお約束なのである。ただし、今回の「ドクターぶたぶた」に関しては、そのお約束の風向きがいつもとは少し違うのだ。いわば一歩踏み込んだとでも言うべきだろうか。

あなたなら、手術を受ける?もし私なら・・・・

ドクターぶたぶたが手術を行おうとして、断られるケースもあるという話になり、それに関して、ぶたぶたさんはこう話す。

「あたし・・・・先生は手術がとても上手だから、日本中で引っ張りだこなんだと思ってました。」

「無理無理~やはり外見にクセがありすぎるからね!ただそばにいるだけだったり、話したりする分には気にならなくても、手術をするっていうのはまた別の問題なんだよね。いくら上手だからって、頭では割り切れないんだよ。人間でいかにも優秀で誠実な人だって、失敗する場合があるんだから。ぬいぐるみの手術はだいぶハードルが上がってる状態だよ!」

いつものパターンなら、ぶたぶたさんを受け入れた人たちは、ぶたぶたさんの仕事ぶりも認める。今回そう簡単にいかないのは、「医師」という職種のせいであるともいえる。それがなんともせつなくて、もどかしい。実は看護師をしている私なのだが、現実をいやというほど直視している私でさえ、「もっと、ぶたぶたさんを認めてあげて!」と心から応援したい気持ちになった。

本書を読み終えると、このドクターなら大丈夫、手術をお願いしたいという気持ちにさえなるのだ。そこまで考えてふと思った。逆に、普段私たちは、執刀医のことなんて、ほとんど知らないのに、医師で、人間であるというだけで、信頼している。よく考えるとこれってどうなんだろう?そんなことまで考えさせられた一冊である。

ドクターぶたぶた
著者: 矢崎 存美
ISBN:4334773168 / 発売日:2016-07-12
出版社.: 光文社

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