安定感のあるさわやかなミステリ | [書評]カササギたちの四季

カササギたちの四季
著者: 道尾 秀介
ISBN:4334927432 / 発売日:2011-02-19
出版社.: 光文社

ライトな謎をライトに解決

理屈っぽい「名探偵」カササギと、友人でありワトソン役でもあるヒグラシのコンビに、名探偵を盛り上げる係の女子中学生を加えた3人で事件を「解決」していく連作短編です。

ちなみにカササギ氏は『マーフィーの法則』が好きです。

「ヤングの非生物の移動の法則……『動かないものでも、ちょうど邪魔になるところまでは移動できる』……なるほど」

「またそれ読んでるのか」

彼は本から顔を上げ、薄い眉をしきりにひくひくさせながら言った。

「『マーフィーの法則』は何度読んでも学ぶべきものが尽きない。この世に存在するすべての失敗例、それが様々な分野における才人たちの言葉によって完璧に網羅されているのがこの本だ。人生において失敗をしないためには、まず失敗とは何かを知り尽くす必要があるんだよ、日暮くん」

というのはもう何べんも聞いた台詞で、僕は言葉の途中からいっしょに口を動かせるほどだった。

実はこの作品は、いわゆるミステリそのものを楽しむものではないかもしれません。読者を悩ませる謎、というにはあまりに境界条件が曖昧です。自らが探偵になったつもりで頭を捻りたいという人には向かないかもしれません。

謎が軽くひとひねりしてあって、それをさらっと納得できる程度に明かしてくれればいいという人にはお勧めです。

小さなどんでん返し

主な登場人物三人の関係性を端的に表した部分があります。

彼女がここへ出入りするようになったのは半年ほど前のことだ。ある複雑な出来事が彼女を襲い、それを華沙々木が見事解決し──それが僕たちと菜美との出会いだった。以来、彼女は暇さえあればこの店へやってきて、持参したポッキーを食べたり、知恵の輪をひねくったり、華沙々木の横顔をじっと眺めたりしている。

これまで何度、ばらしてやろうと思ったことだろう。あのとき彼女を救ってやったのは、じつは華沙々木ではなく僕だったのだということを。彼女は華沙々木を天才だと思い込み、華沙々木もまた自分を天才だと思い込んでいるようだが、それはどちらもまったくの間違いなのだ。僕が細工をしなければ、あの出来事は収拾がつかなかった。菜美だって救われなかったし、華沙々木だってただの間抜けなにわか探偵で終わっていたはずだ。

ここに描かれていることが、それぞれの短編における“謎”でそのまま踏襲されます。ちょっとした謎に巻き込まれかけると、カササギ氏がまず天才的な探偵ぶりを発揮し、菜美がそれを盛り上げます。そしてヒグラシ氏はカササギ氏の推理を裏付けるための証拠をでっち上げて辻褄をあわせます。

ヒグラシ氏の辻褄合わせの労力も、きちんと細部まで描かれるので、舞台裏を覗かせてもらうような楽しみもあります。そして短編小説としては、そこがきちんとどんでん返しになっているのが嬉しいポイントです。これがもし、本格長編ミステリでやられてしまっては、最後の最後で腹立たしさしか感じないかもしれません。けれどそのひっくり返し方が許される人間関係とほどよいボリューム、描写の妙があります。

ミステリ小説として読むのならば、そこに新鮮さや複雑さはあまりないかもしれません。ただ、真相に辿り着くための面白さ、それらを取り巻く(または巻き込まれる)人間たちのあたたかな関係が読後感を爽やかにさせます。

どんよりしたくない時におすすめの作品です。

カササギたちの四季
著者: 道尾 秀介
ISBN:4334927432 / 発売日:2011-02-19
出版社.: 光文社

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