穏やかで優しい、あなたの中の愛と感謝を思い起こさせてくれる本 | [書評]今日が人生最後の日だと思って生きなさい

今日が人生最後の日だと思って生きなさい
著者: 小澤竹俊
ISBN:4776208954 / 発売日:2016-01-23
出版社.: アスコム

「ホスピス医」である著者だから語れる内容

穏やかで優しい本である。この本に「相手を変えよう」「ためになったと言わせよう」という気負いは感じられない。事実や感じたことを、淡々と述べる内容ではあるが、自らの意思で「ホスピス医」と言う職業を選択し、迷い苦しみながらも、この職業を全うしようという著者の思いがこの本には溢れている。医師になろう、看護師になろうと思う人は多いかもしれないが、あえて「ホスピスに関わろう」と思う人は少ない。

看護師をしている私でさえ、「治らない病気の方や、死に直面した方に接する」ことに対して、戸惑いや迷いを常に持ち続けている。それに正面から向き合うことは、生半可な気持ちでできることではない。そこにあえて取り組もうとする著者の言葉には、静かではあるが深い重みがある。

非日常の視点から日常を眺めてみようという言葉に込められたもの

2800人を看取ってきた著者はこのようなことを述べている。

もし毎日の生活を「つまらない」と感じているなら、時々でかまいませんから「今日が人生最後の日だ」と想像し、非日常の視点から日常を眺めてみましょう。食事がとれること、布団でぐっすり眠れること、大事な人といつでも会えること、電気やガスがつくこと・・・・。特別なことはなくとも、ふだん当たり前に過ごしている日常が、いかに輝きに満ちた、かけがえのないものであるかがわかるはずです。

震災にあったり、病気を患ったりして、一時的にこのような思いを抱くことは可能でも、平穏な日常を取り戻してもなお、同じ思いを持ち続けることは、困難だ。著者もそのことを本書で指摘しているが、それでもあえて「時々でよいから、こう感じてほしい」と語っている。

突然「非日常」の状況に追い込まれ、その中で何かを見出そうとする人たちに関わる著者の言葉であるからこそ、この言葉は「日常」をすごす私たちの胸に響く。

あなたの中にある感情を思い起こさせる本

実は、この本を読む前まで、自分の人生はなんて平凡でつまらないものなのだろうという思いに陥りかけていた。いわゆる「むなしさ」とでもいうのだろうか。しかし、本屋でふと手に取ったこの本を読んで、読み進めるうち、本のページをめくる手が自由に動くことにさえ、ありがたいと思える自分に気づいた。

この本は生き方を変える本ではなく、あなたの心の中にある「感謝」と「愛情」を思い起こさせる本である。「現実にむなしさを感じている方」「親しい人の死に直面した方」「病気を患っている方」、もちろんそれ以外の方にも、ぜひ手に取ってページを開いていただきたい。真っ暗で先が見えないと思い込んでいた未来に、温かくて柔らかい一筋の光を見いだせるはずである。

今日が人生最後の日だと思って生きなさい
著者: 小澤竹俊
ISBN:4776208954 / 発売日:2016-01-23
出版社.: アスコム

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