読み手によって視点が180度変わる本!あなたはどう感じますか? | [書評]夜明けの街で

夜明けの街で
著者: 東野 圭吾
ISBN:404371808X / 発売日:2010-07-24
出版社.: 角川書店(角川グループパブリッシング)

読み手によって視点が変わる本!

男性の目線から語られる不倫小説であると同時に上質なミステリーでもあるこの作品。東野圭吾、お得意のミステリーに、渡辺淳一のエッセンスを取り入れた小説とでもいうべきだろうか。人間は実に身勝手な生き物である。50歳をすぎた主婦である私がこの作品から得た第一印象は「不快感」である。

同年代の女性目線から語られる不倫物語を読むと、ちょっとしたワクワク感を味わえるというのに、不倫をしている夫の目線から語られる心情をつづったこの作品を読むと、不快感を通り越して怒りすら感じる。もし私が20台の独身女性だったころ、この本を読んだら、どう感じたであろうか。ある意味「純愛小説」だとさえ感じたかもしれない。自分もこんな恋愛をしてみたいとさえ思ったかもしれない。

では、既婚男性が読むとどう感じるのだろう。願望なのかもしれない。不倫という行為の疑似体験をして、現実に安堵するかもしれない。読み手によって、その視点はまったく変わってくる。

心情が手に取るようにわかる巧みな描写!

その思いを強くするのが、実にたくみな心理描写であろう。

確実に何かに近づいている、という実感があった。だがそこにあるものが幸せなのか不幸なのかは、わからなかった。わかっているのは、この流れはもう止められないということだった。巨大な釣鐘も指先突き続けていれば、やがて共振して大きく揺れるように、これまでの些細な行動の積み重ねが、僕の人生を激しく揺らせようとしていた。

その描写は実に細やかで、主人公の心情は読み手にストレートに伝わってくる。その心情は手に取るようにわかるし、どうしようもない状況だとは理解できる。だが、共感できる人もいれば、まったくできない人も居る。

私は、読みながら、ある人が犯人であってほしいと強く感じていた。そうすれば、この釣鐘の揺れを止めることができるかもしれないから。ミステリーを読みながら、このような思いを抱いたのは初めてである。

ラストの衝撃と本当の恐ろしさ

ラストシーンもまた読み手によってまったく捕らえ方が変わってくるだろう。ちなみに私の感想は「やっぱり、そうだったか」である。読み手によっては、こんなラストシーンは見たくなかったという人もいるかもしれないし、どんなミステリーよりも恐ろしいと感じる人もいるかもしれない。そんな感情を抱かせるのは、主人公の不倫相手の女性と、妻である女性の二人だ。

私には主人公をとりまく二人の女性たちがラストシーンで見せる姿のうち、一人は「男性がこうあって欲しいと思う女性像」であり、もう一人が「男性にはとっては、こうあってほしくない女性像」だと感じる。

「こうあって欲しい女性像」はいわば男性の抱く幻想であり、「こうあってほしくない女性像」は現実的で生々しい。さて、どちらの女性が、どちらのタイプなのか。実際に本書を読んで確かめてほしい。

夜明けの街で
著者: 東野 圭吾
ISBN:404371808X / 発売日:2010-07-24
出版社.: 角川書店(角川グループパブリッシング)

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