人数分の物語を乗せて 電車はどこまでも続かない線路を走っていく

阪急電車 より

旅は何も遠くへ行くだけではない。この本を読めばそんなことに気づきます。普段毎日のように電車で通り過ぎているのに一度も降りたことのない、見向きもしてこなかった駅がなんと多いことか。そこにだって素敵なレストランがあるかもしれないし、珍しいスーパーがあるかもしれないし、豊かな自然があるかもしれない。地理的には近いはずなのに、「生活圏」ではなく、「有名スポット」でもないその場所は、実は自分にとっては一番遠い場所なのかもしれません。

この物語は8駅しかない阪急電鉄今津川線の電車を舞台に、それぞれの問題や事情を抱えた乗客たちが、互いにわずかに影響を及ぼしあい、またすれ違っていくというお話です。とても短い路線の小さな電車の中にも、いろいろな人がのっていて、人の数だけ物語がある。「袖振り合う」だけの細く心許ない縁かもしれませんが、人と人が接すれば、そこに何かしらの化学反応が起き、小さな変化が生まれる。そんなことを感じさせてくれる物語です。この物語の登場人物の一人は、偶然予定とは違うある駅で降り、その町の素朴な素敵さを発見します。この本を読んだ私は、彼女のように、いつも使っている電車に乗って、近いのに行ったこともなかった場所、知っているのに見向きもしなかった場所に行ってみたくなりました。

近場にも、きっとまだ見ぬ素敵な場所がまだまだあるのだろうなと思います。新しい場所で素敵なものを見つけられたら、それはりっぱな旅ではないでしょうか。旅に距離は関係ありませんよね！

回答者：20代 女性