「神=会社」の気まぐれで我々は「下流中年」になったのか | [書評]下流中年 一億総貧困化の行方

下流中年 一億総貧困化の行方
著者: 雨宮 処凛
ISBN:4797386576 / 発売日:2016-04-06
出版社.: SBクリエイティブ

団魂ジュニア世代が大学を卒業し就職するときはバブル経済が崩壊し就職氷河期だった。

現在働き手の4割は非正規雇用となり不安定な雇用で生活せざるを得ない状況になっている。団塊ジュニア層が生きづらい社会となっている要因は何か、必要な対策は何か対処法はあるのか。雨宮処凛氏と萱野稔人氏の対談、赤木智弘氏の寄稿、低所得者のルポで構成されている。

世代間で不公平な配分となっている社会保障

「生きづらさ」についてから8年。巻頭の雨宮処凛氏と萱野稔人氏の対談では団魂ジュニア世代が中年になり抱えている問題についての対談である。特に目を引くのは萱野氏の高齢者の社会保障費が多すぎるという指摘だ。

今の日本の高齢者は、年金を始めとした高齢者福祉でお金をもらいすぎなんですよ
(中略)
若いころからたくさんの保険料を払っていたおかげで、老後も毎月40万以上の年金をもらえるような高齢者がいます。
(中略)
2~3億円もするマンションを、相続税対策でポンと買ってしまうような人に支給する必要なんかない。要はものすごく非効率な形でお金が配られている現状があるんです。

現在の社会保障費の分配は、高齢者福祉に偏り過ぎているという指摘がかねてからある。しかしこの後の対談で萱野氏も指摘しているが富裕層な高齢者に対して年金を削減、停止することは実行することが厳しい。なぜならその高齢者は選挙の票田であり支持層だからだ。

私事だが、私の父も大手企業に長年勤め上げたので多額の年金を受給している。私の給与より多いくらいだ。父はもし年金の支給を引き下げることがあれば政府に対して俺は暴動起こすと言っていた。

既存の利益を受けている高齢者を黙らせるのは至難の業だろう。しかし若者世代が貧困に苦しみ、現役世代が多額の所得税、年金、保険料を天引きされても将来の年金給付が、現在の高齢者と比べてると低くなり格差がでるのはあまりに不公平すぎはしないか。

日本の将来を見据えた厳しい政策ができるか、このままずるずると国債で膨らませ歳入を上回る社会保障を続けて最後には財政破綻してしまうのか。これからの社会保障がどの方向に行くのか有権者の見識が問われるだろう。

会社という「神」なんて捨ててしまえ

「希望は、戦争」の論文で有名なフリーライター赤木氏の「我々はいかにして下流中年にさせられているのか」という章では現在までの労働環境の問題についてやや挑発的に問い直している。

企業を昭和以降の「神」となぞらえており、その「神」の気まぐれにより我々が下流中年となったと断じている。

「大学を卒業する頃」に、川から神の居場所へ水を引き入れる「取水口」があるのである。(中略)その入口は企業側の都合で大きく開いたり小さく閉じたりするのである。

戦後、高度経済成長時代の頃に就職列車というものがあった。企業は多くの若者を地方から集団就職で採用した。学歴等は問われず会社の大きな「取水口」にうまく取り込まれ「神」の居場所に落ち着く、すなわち会社に就職できた団魂世代は、毎年昇給し家を購入して家族を営むことができた。昔は住宅価格も今ほど収入に対して高くなかったそうだ。

しかしバブルが崩壊し団魂ジュニア世代になるとその「取水口」は閉じられ就職活動で採用されず多くの若者が非正規労働者となる。会社という「神」に見捨てられた若者は不安定な雇用と少ない収入で家族を持つことも将来への貯金もできない生活をしなければならない。これが自己責任といえるのだろうかと赤木氏は厳しく問うている。

世代間の雇用状況の違いに対する無理解が、現在の非正規労働者に対する社会の冷たさ、無関心さの根底にはありはしないだろうか。企業は営利企業であり個人の生活がどうなろうと利益を優先して採用を決める。その結果「神」の恩恵を受けられなければ、つまり結婚して家庭を持つという「普通」の生活ができないというのはあまりに不公平ではないだろうか。

すなわち下流中年とは企業という「神」に選ばれなかった人間である。

現在の日本では会社という「神」選ばれ初めて「人間」となれるのだ。家庭を築き、家を建てることが可能となる年収の賃金を得ることができるのだ。

一方、「神」に見捨てられし「下流中年」はどのような生活を送るのか。環境が変化せず希望が持てない年収200万の生活がずっと続くのである。さらに高齢になるにつれ健康問題も発生し生活環境はますます厳しくなっていく。いったい下流中年はどうしたらよいのだろうか。

人は神のカリスマ性に支配されており、企業に生活を支えてもらうことでしか、私たちは社会で生活する権利がないのだと思いこんでしまっている。(中略)この思い込みを解くのは極めて大変なことである。(中略)それを脱するためにはどうしても我々は「神を殺す」しかないのである。

ここで喩えられている「神を殺す」というのは会社という「神」から仕事は引きはがすことだと赤木氏は述べている。最近は副業を認めるという会社も増えてきている。例えばネットを活用した副業や、地方での企業を目指す若者たちも増えている。

もし「神」すなわち会社が人間として生きるための恩恵を施してくれないならば、神に頼らず収入を得るための方法を考えて行動するべきだろう。決して神に選ばれなかったからと言って悲観してはならない。小さな生業を得るための方法はまだいくらでもあるのだから。

「下流中年」のためのセーフティネットを改善すべき

本書には最後に12名のリアルな生活が描写されている。派遣社員、ブラック会社でのうつ病、シングルマザーとこれらは全くの別世界の話題ではなくいつ誰でも「神」という会社の恩恵から排除されれば陥ることになる。

貧困に関する多くの著作を持つ阿部彩氏の提言では「いざというときは生活保護を」とあるが、実際に働ける年齢だと窓口で受け付けてもらえないことも多いと聞く。身内に連絡が行くのを嫌がる人も多いそうだ。さらに生活保護の大部分を取り上げて劣悪な住居に住まわせる貧困ビジネスも横行している。困窮者への生活保護制度ももっと改善されるべきだろう。

また2015年4月より「生活困窮者自立支援制度」が施行された。各地域で雇用、住居に困窮している人のための相談窓口となって対応を行うというものだ。まだ各自治体により対応に差があり丁寧に対応してくれる所もあればただハローワークへの窓口を伝えるだけという杜撰な対応の自治体もあるそうだ。

残念ながら今だ賃金格差は広がり非正規雇用者は増加し続けている。社会構造が生み出した生活困窮者に対するきめ細かな支援策が求められているのではないか。

下流中年 一億総貧困化の行方
著者: 雨宮 処凛
ISBN:4797386576 / 発売日:2016-04-06
出版社.: SBクリエイティブ

あわせて読みたい