心に響く物語 | [書評]宇宙兄弟(1)
どんな内容なの?
子供のころから兄弟そろって「宇宙飛行士になりたい」という夢をもっていた南波(なんば)兄弟。弟・日々人(ひびと)は夢を叶え、月面に立とうとしていたそのころ、兄・六太(むった)は会社をクビになっていた。六太が自分の中にいる「敵」に立ち向かい、宇宙へ向けて走り出す物語。
六太の人柄
まず惹かれるのは六太の人柄だ。なんでもできるわけでもなく、イケメンなわけでもない。つい、「どうせ…」と考えてしまうそんな六太は読んでいてとても身近に感じられる。
六太自身は初め、とてもネガティブで自分に自信などもっていなかった。しかし、そんな六太が心の中でつっこむ言葉や心の変化、表情が絶妙に笑いを誘う。立ち読みなどしてしまったら、その場で噴き出して笑ってしまうほどに絶妙な間と空気を含んでいる。
ウジウジしているけれど、やわらかくてどこか温かな空気をもって、私たちの心をつく言葉を放つ六太。そのユニークでどこか温かい六太の人柄に癒される人も多いのではないだろうか。
宇宙飛行士という仕事
宇宙飛行士という仕事に注目して描かれている分、JAXAやNASAが細かく描かれている点もおもしろい。宇宙飛行士選抜試験がどういったものなのか、どのような訓練をしているのか、垣間見ることができる。宇宙飛行士だけでなく、飛行士たちを支える側の人々の思いや情熱も感じることができる。
心に響く
この漫画の魅力はもちろん六太であるが、それと同じくらいの魅力は、様々なことが心に響いてくることにある。
六太は先輩宇宙飛行士に、あなたにとっての敵は誰か、と訊かれたときに
「俺の敵は だいたい俺です。」
と言っている。宇宙へ行きたい気持ちを邪魔してきたのは、ほかの誰でもなく結局は自分だったと振り返っている。
弟の日々人が、六太がうじうじしているときに言った言葉は私たちの多くにとって耳が痛いかもしれない。
「宇宙行くの夢なんだろ 諦めんなよ
もし諦めきれるんなら そんなもん夢じゃねえ」
この漫画に出てくる言葉たちはどれも熱をもっていて、何度読んでも胸を熱くさせられる。魅力的な人物たちが魅力的な言葉を放つ、そんなところも大きな魅力である。
噴き出してしまうほどおもしろくて、涙がすーっと流れてしまうほど感動もある。とても辛い話もある。けれどいつも元気づけられる。私は、疲れてしまったときにいつも読みたくなる。彼らの人生をのぞいてみませんか。