複雑に入り混じる感情を短編に収めたこの作品 | [書評]カフェー小品集

カフェー小品集
著者: 嶽本 野ばら
ISBN:4094080147 / 発売日:2003-03
出版社.: 小学館

文庫で短編集だからこその読みやすさ

私は嶽本のばらさんの作品がもともと好きなのですが、彼の作品は1度読んだだけでは不可解に思う表現や独特すぎる感性から文章にも表れる読みにくさがある中、今回オススメさせて頂く作品は、短編ならではの読みやすさがあります。長編では少し重い読み応えも短編集だからこその軽い入り口なので、是非オススメしたいと思います。

この作品はカフェーで起きる人間ドラマと恋愛をテーマに「僕」と「君」の数々の恋物語が描かれています。恋愛と言ってもやはり短編なのでシーンごとの構成が多く、1話1話軽い読み口ででもしっかりいろんな事を考えさせてくれる、感情に素直な文章が多いところが魅力的だと思います。

この作品の最大の特徴はキャラクターに名前がないところにあります。「僕」と「君」でほとんどの登場人物が描かれているため、冷たい言い方をしてしまえば誰でも良いのです。読み解く自分を主人公に置いてもいいですし、自分の大切な人でも構わないのです。短編なので1話読んだら少しお休みを入れても良いでしょう。カフェーでのんびり読むのも良いでしょう。読まず嫌いにもオススメしやすい1冊だと思います。

この一言で考える事

一体何時になれば僕は上手く人を愛せるようになるのでしょうか。

世の中にはたくさんの恋愛の物語がありますが、愛というのはこの一言を模索するものなのではないかと私は思います。

恋愛をひも解く教科書などなく、100人いたら100通りの恋愛があり、伝える方法や表現があります。前述のフレーズはこの短編集に掲載されている作品の冒頭に書かれていたものでした。短編だからと軽い読み口ではありますが、しっかり考えさせてくれる言葉がこれだと私は思います。愛する事、愛を伝える方法は人それぞれですからもちろん受け取る側もそれぞれです。

同じ台詞を言われても考える事は人それぞれでしょう。私はこの一言を読んだときに「あなたの愛し方はどうですか?」と問いかけられたように思いました。単純なストーリーの面白さだけで選ぶよりも、こういった何かを考えさせてくれる作品と出会えた事を私は嬉しく思っています。

ほとんど台詞がない読み応え

この短編集ではほとんどが「僕」の語りです。
前述した通り読み手も100通りいるのですから、その受け取り方もそれぞれ。この作品は恋愛ドラマを通して「人はそれぞれ自由を持っているんだよ」という事を伝えてくれているように思うのです。

恋愛の始まりはカフェーだけではありません、ありとあらゆるところに点在しています。それを発展させていけるかどうかはその人次第です。「僕」の思う主観から自分なりの恋愛だったり恋を見つけるのもこの作品の面白さだと思います。この作品を通していろんな考え方を見てみてもいいのではないでしょうか。

カフェー小品集
著者: 嶽本 野ばら
ISBN:4094080147 / 発売日:2003-03
出版社.: 小学館

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