ユニコード作成過程の激しくて面白いバトル本 | [書評]ユニコード戦記 ─文字符号の国際標準化バトル
ユニコードはみなさんお世話になってます
まず、この本はIT技術者だけに向けられて作られてはいません。IT技術者以外の方も、作者の軽妙な標準化舞台の描写と多くの余談により、とても楽しめます。IT技術者ならなおのことです。文字コードに詳しくない人には特にオススメです。文字コードに詳しくなれます。
まえがきに次のように書かれています。
本書は、現代の情報通信技術の地球規模での共通基盤である符号化文字集合標準(いわゆる文字コード)となっているユニコードとISO/IEC 10646の普及と変容の過程を描いている。
ユニコードは、現在ほとんどのOSで使われているのでご存知の方も多いでしょう。UTF-8、UTF-16とも言われます。ISO/IEC 10646は、ユニコードの拡張版です。今でこそユニコードのおかげで、どのコンピュータやスマホでも日本語で書いた文書をやり取りできますが(たまにシフトJISでないとダメなんてこともありますが)、ユニコードができる前はややこしかったのです。
特にUNIX系(通常文字コードはEUC)と古いWindows(Shift-JIS)の間で、変換ツールのnkfを使ったりしていたわけです。ホームページもそうですね。昔は、Shift-JIS互換のMS-932を使っていたのが、今はUTF-8が普通です。
国際標準化のバトルの舞台に読者を惹き付ける一品
この本は、作者が上司命令でユニコード等の国際標準化に参戦させられてからの標準化委員とのバトルとその背景や余談を、感情を込めて、面白く綴った読み物です。
作者の上司は、あのジャストシステムの浮川初子さん(当時です)。つまり、作者はジャストシステムの代表として、ユニコードコンソーシアムに参加するわけです。
物語は、時系列で進んでいきます。読者は、読んでいくうちに、作者の苦労と努力に感謝することになるでしょう。
ユニコードは、規格策定開始の当初から一般にも知られていましたが、すったもんだ有りの規格です。作者は、規格の策定過程で、いろいろなバトルを経験し、かつ多くの貢献をしています。その苦労のほどが読み取れます。
英語力の必要性
最初は、通訳を介していた作者は、女子大で英会話を勉強して通訳なしでもバトルが出来るようにスキルを獲得しています。英語のトレーニング方法も書かれていて、標準化の話から少しずれますが、その内容も時代がわかるもので面白いです。私もある国際標準化にいつの間にか、ちょっと絡んだことがあるので、英語って必須スキルなんですよね。
最後に
タイトルにあるようにこの本は「戦記」です。ファンタジーとは言いませんが、バトルというのは正しいです。
国際標準化に関わったことのある人なら、作者と気持ちの共有ができるでしょうし、関わったことのない人なら知識になるでしょう。本の最後には、少し泣かされますよ。