痛みに触れる人間くさい物語 | [書評]鋼の錬金術師

鋼の錬金術師
著者: 荒川 弘
ISBN:4757506201 / 発売日:2002-01
出版社.: スクウェア・エニックス

「賢者の石」を探す旅

舞台は西洋風な異世界。小さなころから錬金術を鍛えたエルリック兄弟は亡くした母親を生き返らせようとして人体錬成を試みる。

しかし出来上がった「それ」は人の形をしていなかった。禁忌とされる人体錬成を行った代償として兄のエドワード(エド)は左足を、弟のアルフォンス(アル)は肉体すべてを「持っていかれて」しまう。たった一人の家族を失ったエドワードは自分の右腕を犠牲にして弟の魂を錬成し、空っぽの鎧に定着させた。

人を作ろうとしたことが間違いだったことに気付いた兄弟は、それでも元の体に戻るため「軍の狗」と呼ばれる国家錬金術師の資格を取り、元の体に戻る可能性を秘めた伝説の「賢者の石」を探す旅を始める…。

とんでも人間の万国ビックリショー

活躍する人物の多くは錬金術師である。

しかし、お堅い科学者というわけではなく、錬金術を駆使して闘っているような人物が多い。石壁から武器を錬成したり、空気中の成分を変化させて大爆発を起こしたり、巨大なものを作って見せたりなど、こんな錬金術があるかー!とつっこみながら見ていただきたいと作者が語っている通り、めちゃくちゃなことも多い。

めちゃくちゃではあるが、それでも引き込まれてしまうのは何といってもテンポがいいからだろう。どんなにシリアスになっていこうともあちらこちらにギャグの要素は忘れずにちりばめられ、おもしろさや人間臭さを忘れない。そんなところも見どころのひとつである。

国全体を巻き込んだ闘いに発展していくその計算や作戦も注目するべきところだろう。

物語の本質

印象に残りやすいのは、そんなとんでも人間たちのバトルだが、本質にあるのは「人間の存在」とも言えるシリアスなものである。「人を作る」ことはもちろん、自分たちの存在は世界の中でどういうものなのか、ということも考えさせられる。

軍事国家という性格からあちこちで起こされる紛争。それらに参加した、巻き込まれた人々の苦悩。大きな力を持ちながら、一人の人も救えないと嘆く主人公たち。

痛みを伴わない教訓には意義がない
人は何かの犠牲なしに何も得ることなどできないのだから
しかしそれを乗り越え自分のものにした時…

悩み足掻くエドとアルは最後にどんな答えを導き出すのか…ぜひそれを見届けてもらいたい。

鋼の錬金術師
著者: 荒川 弘
ISBN:4757506201 / 発売日:2002-01
出版社.: スクウェア・エニックス

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