終わらせる物語 | [書評]断章のグリムXVII 白雪姫・下

断章のグリムXVII 白雪姫・下
著者: 甲田 学人
ISBN:4048865633 / 発売日:2012-05-10
出版社.: アスキー・メディアワークス

ほんとうは怖いグリム童話

童話をベースにされた悪夢の話の最終章です。

人の記憶は、思いこみからできているのではないかと思えた最終話です。

自分の記憶は本当に正しいのか。過去があるから選んできた選択肢は正しいのか。そして、目の前にした現実はなにを選べばいいのか?普通でいたかった蒼衣と、すべてを憎んできた雪乃の長い悪夢がひとつ終わります。

白雪姫はだれ?

「〈グランニギョルの索引引き〉は予言じゃない。〈悪夢〉を童話の形にエスカレートさせる〈断章〉なんだ」

蒼衣の断章によって消えた葬儀屋さんの結末をみて、自身を終わりにすることを望む世話役の神狩屋。

彼は一緒にロッジを立ち上げた入谷を裏切り、いろいろな人を巻き込んで、殺してでもその望みをかなえようとする。そうして、まだ学生の雪乃と蒼衣を守ろうと他のロッジからやってきた大人たちは、犠牲となっていく。

雪乃はうまく自身の断章を使えないことにいら立っていた。守ろうとされることに、そして断章の暴走におびえ進めない自身に。蒼衣は視界のはしをかすめていく葉耶の姿に、戸惑いと不安を揺さぶられていた。

そして、自分が思っていた過去と違う現実の「過去」。葉耶の最後と、思いだしていく現実の過去に蒼衣の〈断章〉はより不安定になっていく。神狩屋は蒼衣の断章を完全に自身へ向けるために、蒼衣の両親へと自分の断章を向ける。

配役はすでにきまっている

『誰とも関わらずに死ぬべきだったわ。私も、あなたも』

まるで、白雪姫に毒りんごを渡す女王のように、自身の〈断章〉を蒼衣の周囲へばらまく神狩屋。また、葉耶を思い出していくことで、彼女の死を理解し、同時に自身の断章であると再認識する蒼衣。

それだけではなく、蒼衣の〈目覚めのアリス〉と夢見子の〈グランニギョルの索引引き〉は同じ悪夢を根とする断章であった。そして蒼衣は今回の「泡禍」白雪姫を読み解き、理解していく。

大人たちがいなくなり、子供たちだけが残されていく中で雪乃は神狩屋のもとへ辿りつく。

雪乃の悪夢そのものであり、彼女に取りついている亡霊の風乃。
蒼衣の悪夢そのものであり、彼の王国であり鳥かごである亡霊の葉耶。

ふたりの悪夢である「女王」たち。そして、白雪姫の配役が蒼衣によって語られる。

断章のグリムXVII 白雪姫・下
著者: 甲田 学人
ISBN:4048865633 / 発売日:2012-05-10
出版社.: アスキー・メディアワークス

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