奇想天外なテーマと緻密な描写が展開される上橋ワールドの傑作 | [書評]鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
著者: 上橋 菜穂子
ISBN:4041018889 / 発売日:2014-09-24
出版社.: KADOKAWA/角川書店

児童文学にして、児童文学にあらず

本書は、2015年本屋大賞作品です。著者の作品は児童文学に分類されるのですが、せめて10歳以上でないと本書は読みこなせないでしょう。大人なら大丈夫。

著者の作品は、ドラマやアニメにもなった「精霊の守り人」に代表される「守り人」シリーズが有名です。本作も、「守り人」の世界観と似たところがあります。「守り人」シリーズを読んで、楽しめた方なら本作もオススメです。

ファンタジーですが、ストーリーは複雑

タイトルは「鹿の王」ですが、この鹿は、いわゆる一般的な”鹿”ではなく、本書の舞台である架空世界の飛鹿(ピユイカと読みます)のことです。普通の鹿も登場しますが、飛鹿はより戦闘向きで馬の代わりとなるものです。

「鹿の王」の意味は、特別な飛鹿のことで、文中で次のように書かれています。

「飛鹿の群の中には、群が危機に陥ったとき、己の命を張って群を逃す鹿が現れるのです。」

主人公は、飛鹿を乗りこなす戦士ヴァンです。「鹿の王」がどのように登場するかは、一つのポイントですので、本書を読んでください。
本書は、単行本二冊合わせて1000ページ越えの作品で、ファンタジーであり、強大な帝国と俗国と、部族間対立と、医学が絡みっている上に、登場人物が多いので、味合うなら相当ゆっくり読むのが良いでしょう。

優れた人物描写

先に書いたように登場人物が多く、また複数の国や部族が登場するので人名や地名が名前が漢字とカタカナになっています。最初は名前を覚えるのに苦労します。しかし、読んでいくうちにキーパーソンの名前だけ記憶していくことができるので、それで十分です。

著者のすごいところはほとんどの登場人物を詳しく描写しているところです。サブキャラ的な扱いの人物についてもです。実際には、そこまで描写しておかないと、ストーリー展開上、説明がつかないことになるからだと私は思います。それだけ、ストーリーが複雑なのです。

ストーリーのポイント

戦士ヴァンの戦闘シーンを含めた活躍もポイントの一つです。しかし、もっとも重要な点は、病の治療にあります。この医療面のストーリーについては、もっぱら医術師ホッサルの担当です。本書では、ある病が発生しますが、その症状、原因の調査、対処方法の研究、開発の過程が非常に詳しく描かれています。

途中で手を抜かずに、理路整然と、ちゃんと筋が通った病に関する記述が書かれています。それだけでも、本書の多くを費やしています。他にも、ポイントとなる点はあるのですが、それらを吹っ飛ばすぐらいのボリュームと説得力があります。

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
著者: 上橋 菜穂子
ISBN:4041018889 / 発売日:2014-09-24
出版社.: KADOKAWA/角川書店

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