小説を読む楽しさを堪能したいなら 佐藤正午のススメ | [書評]取り扱い注意
物語る才能の素晴らしさ
佐藤正午という作家を知っていますか?
タイムパラドックスをモチーフにした「Y」や、ガールフレンドの失踪から物語が始まる「ジャンプ」はネプチューンの原田泰造主演で映画化もされベストセラーになったので、名前を聞いたことはあるかもしれません。この2作もミステリーや恋愛要素が上手く絡み合った良く出来た小説です。
佐藤正午の魅力はその構成力と会話の洒脱さにありますが、時系軸が複雑であったり人によっては読みにくく感じるかもしれません。
しかし謎が解けた後に改めて読み返すと、その伏線の張り方に深く感心し、物語る能力の高さに唸ることしきり。会話の中や語り手の人称にそのヒントが隠されていることも多いのですが、初見時はほぼ気づきません。
というより、私はそれを放棄しているといったところでしょうか。とにかく会話のテンポや奇妙な人物が多く登場する世界観が好きなので、細かく読み込むのは二の次で全く構わないからです。
作者ファンの評価が高い「取り扱い注意」
「取り扱い注意」は佐藤正午ファンの間では最高傑作と言われることが多く、私のベストもこれになります。
県庁の役人であった主人公は「女を蕩けさせ夢中にさせる」才能のある男。といってもいやらしさを感じさせないのが作者の特徴なのですが、その主人公とロリータで厄介な叔父や数人の女性がくりなす、多分犯罪小説とも言えるのでしょうか。
しかしそこにはクライムノベルの重苦しさはありません。
しょーもない叔父を始め、キャラの濃い女性たちに翻弄される主人公。スクラブルという英単語を繋げるアメリカのカードゲームが素敵な小道具になっていて、ゲーム中に何気なく交わされる会話やその場の空気感がとても好きです。
こんな時には取り合えず、うん、て言えばいいの 一日でも先の約束には不可能でもYES それでその場は済むの
覚えとかなきゃだめよ そんなんじゃこれから集まってくる女を捌き切れないわよ
これは主人公が女を蕩けさせる能力に目覚めた時に言われた言葉。
不可能でもYESと言うのはモテる男の必須条件かもしれません。
作中には「なるほど」と思う台詞がゴロゴロ転がっていますが、出てくる人物は曲者ばかり。一般社会で通用するかは保証できませんが、言葉に遊びやユーモアがある男性は間違いなく魅力的です。
伊坂幸太郎好きなら佐藤正午も好きだと思う。個人的な意見ですが、これで興味を持ってくれたらこの文章を書いた意義も生まれそうです。