たった一度の好奇心で人生が! 世の中には読んではいけない本がある | [書評]ハナミズキ

ハナミズキ
著者: 吉田 紀子
ISBN:4344415108 / 発売日:2010-08
出版社.: 幻冬舎

映画「ハナミズキ」のノベライズ。北海道、東京、ニューヨーク、カナダを舞台にして、お互いを想いつつもすれ違うふたりの10年にわたる恋愛を描いたもの。

2010年に公開された映画「ハナミズキ」のノベライズです。

海外で働くことを夢見る北海道の女子高生が、漁師を目指す同い年の男子と恋に落ち、お互いを想いながらもすれ違いを続ける10年間を描いています。

あなたも北海道に移住したくなる本です。

1.東京から北海道に移住してみた

寄り添う二人の肩に、柔らかな羽根のような雪が音もなく降りかかる。
今年、初めての雪だった。

この小説を読んで北海道の自然に魅せられた私は、生まれ育った東京から移住しました。北海道最大の魅力は冬です。雪化粧した街、白く染まった山──本当に美しいです。そして、人が少ないことがすごく快感なのです。

移住後に主人公の生家(本当にあるんです!)を訪問してみました。

JRは単線、電化されていません。走っているのはディーゼルカーですが、北海道弁では“汽車”です。

時計すらない無人駅で降ります。時刻表を見ると、次の“汽車”は3時間後です。駅を出ると、五、六軒の民家が見えます。中には崩れかけているものもあります。

駅前の道は誰も歩いていません。車なし、自転車なし、コンビニなし。気持ちいいぐらいに何もありません。

凍てついた道を歩くと、すぐ主人公の家です。すぐそばが砂浜、そのむこうは海。雪の積もった庭に立つと、太平洋の押し寄せる波が見えます。涼しい、いや“しばれる”ような海風が吹いてきます。

2.東京では味わえない禁断の快楽

良子の言葉に、紗枝は改めてハナミズキを眺めた。
何より、この木が自分を見守り、導いてきてくれたのだなと思う。
ハナミズキの鮮やかな赤は、北海道の抜けるような青空によく映えている。

駅周辺に3時間いましたが、結局人間を一人も見かけませんでした。昼間の午後ですよ。青空のもと、どこを見渡しても誰もいない。世界が自分ひとりになった気分で、東京では絶対に味わえない解放感です。

そんな場所の何がいいんだとおっしゃる方もいるでしょう。北海道移住後にたまに東京に帰って思うのは、東京の人ごみは知らず識らず神経を消耗させるということです。東京に住んでいるときは、それが当たり前なので気がつきませんでしたが。

すごい騒音の出る道路のそばに住んでいると、最初はウルサイと感じますが、そのうち異常な状態に慣れてしまいます。それが東京に住むってことなのかなあ、と今では思っています。

たまに訪問するぶんにはなんとか我慢できますが、東京に住むのはもう不可能な身体になってしまいました。北海道での解放感を味わってしまうと、もう前の自分には戻れません。やってはいけないクスリにハマってしまいました。

3.たった一度の好奇心が命取り

そして、冬が来る前に圭一は命を終えた。
三十二歳という若さだった。

旅行で北海道を訪れることはできます。でも、旅行はお試しでしかありません。
本当のお楽しみは移住にあります。北海道に住んで四季の移り変わりを経験すれば、あなたにもわかるでしょう。

でも、ご注意を。「私はいつでもやめられる」「一度だけなら大丈夫」ということが、大きな間違いなのです。たった一度の好奇心からやめられなくなり、東京に住めなくなってしまった人がいます。北海道移住は恐ろしいことなのかもしれません。

ハナミズキ
著者: 吉田 紀子
ISBN:4344415108 / 発売日:2010-08
出版社.: 幻冬舎

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