読書とは食事である | [書評]“文学少女”と死にたがりの道化

“文学少女”と死にたがりの道化
著者: 野村 美月
ISBN:4757728069 / 発売日:2006-04-28
出版社.: エンターブレイン

本が大好きな『文学少女』の特異な食生活

読書とは食事である。

読めば血肉となって自分の思考の中に取り込まれ、それと知らぬうちに自分そのものになっている。中には受けつけなくて早々にもどしてしまう異物も、消化できなくて排出されるものもあるけれど、毒として入ってきてワクチンのように体内に免疫をつくり、10年後も効き続けているような食べ物だってある……などと戯れに考えることがある。だからといって本当に本を食べたりはしない。

しかし、この本のヒロイン・遠子は猛者である。

本が大好きな自称『文学少女』の彼女は、本当に本をぱりぱり食べちゃうのだ。主人公の心葉は彼女が食べるおやつとしておいしいお話を書いている。そして、無鉄砲な遠子に振り回されて、いろんな事件に巻き込まれていく。

文学への良い入口に

2006年に初版刊行されたこの本は、当時『このライトノベルがすごい!』に掲載され、評判になっていた。

「なんだろう?」と気になるタイトルも引きが強く、知っていたけれどつい読みそびれてしまっていた。何しろ10年前の本なのである。それをなぜ今ごろ改めて全巻買って読み始めたかというと、最近とあるフランス人ペンパルに「この本今読んでるんだけど、すごくいいよ~、描写もすごくきれい!」と強く勧められたからである。

私が本の虫なのを知っていて勧めてくれたのだろう。しかし、もし『全く文学は読まない』という人であってもすぐに楽しめる内容になっている。日本文学について全く知らなかった彼も、この本を通じて読んでみようと興味を持ったようだ。いま宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にトライしている。

ネタにされたり話題に上る文学作品の中は、誰もが知っている超有名な作品からマイナーな作品まで多岐に渡る。ちらっと本文に出てきた知らない作品をチェックしてみるのもまた楽しい。

楽しみ方はもう一つある

「わたしはベーカー街の名探偵でも、安楽椅子に座って編み物をしながら事件を解決する物知りおばあさんでもないわ。ただの”文学少女”よ。だから、推理ではなく”妄想”ーーもとい、想像することしかできないけど……。」

こんな風に展開していく遠子の推理をしみじみ楽しむのも良いけれど、ネタになっている文学作品をタイトルだけで当ててみるのもなかなか楽しい。そしてなかなか難しい。

ネタバレになるから周辺のことばかり書いたけれど、ストーリーはつり込まれるくらい面白い。でも詳しく書けない。というわけで、ご自身でぜひ読まれて下さい。

最後になるが、先の話に出てきたフランス人ペンパルは「くれぐれもアニメは後で! ネタバレするから先に小説の方を読んで! 順番にね!!」と何度も強調していたのでこれも併記しておく。

わかりやすい巻数がタイトルに入っていないので、私もバラで買ってしまいそうになった口だが、本は順番に買った方が良いようです。

“文学少女”と死にたがりの道化
著者: 野村 美月
ISBN:4757728069 / 発売日:2006-04-28
出版社.: エンターブレイン

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