数学や物理よりも愛がテーマの「容疑者Xの献身」 | [書評]容疑者Xの献身

容疑者Xの献身
著者: 東野 圭吾
ISBN:4167110121 / 発売日:2008-08-05
出版社.: 文藝春秋

テレビでの再放送を見て、あらためて読んでみました。
本では容疑者Xは映画の堤真一よりももっと冴えない人物として描かれています。

天才数学者対天才物理学者

今回の作品においては湯川先生の専門の物理の知識はあまりでてきません、もちろん、実験もしません。

今回は湯川先生が天才数学者石神の天才であるが故の思考を分析して事件を解決していきます。”幾何の問題に見せかけて、じつは関数の問題である。”という石神の言葉をヒントに事件を解決していきます、それは決して湯川にとって心惹かれるものではないのですが。

”天才はそんなことはしない。極めて単純な、だけど常人には思いつかない、常人ならば絶対に選ばない方法を選ぶことで、問題を一気に複雑化させる。”そんなトリックが今回の事件の鍵になります。

容疑者の涙

湯川も認める天才数学者だった石神だが家庭の事情で研究者としての人生を歩むことができずに、高校で数学には全く興味のない生徒達に向って数学を教えています。そこには愛する数学に携わっているという実感も高揚もなく、ただむなしく日々が過ぎていくだけでした。

そんな彼が殺人を犯したのは隣に越してきて彼の人生に一筋の光を与えてくれた靖子と美里のためでした。それを表すかのように湯川に向って石神が言います、”それにしても湯川はいつまでも若々しいな。俺なんかとは大違いだ。髪もどっさりあるし”と。数学にしか興味がなかった石神の言葉とは思えないものに湯川は彼が犯人であることと思うとともに複雑な思いをかみしめるのでした。

そして最後、彼の人生の最後の望みが絶たれた瞬間の彼の涙の切なさは、身にしみるものがあります。

ガリレオ先生の苦悩

天才数学者石神の人間としての苦悩から彼が犯人であることに気付いた湯川ですが、石神の悲しみは十分に彼の魂を揺さぶったのだと思います。

最後、湯川は捜査員に向って叫びます、”彼に触るなっ。せめて、泣かせてやれ”。

今回の作品は、人はどこまで人を愛することができるかというのがひとつのテーマだと思います。それが決して許されないことだとしても、自分の全人生をかけての切ないような愛し方を描いた作品だと思います。

容疑者Xの献身
著者: 東野 圭吾
ISBN:4167110121 / 発売日:2008-08-05
出版社.: 文藝春秋

あわせて読みたい