映画化もされた名作!余韻の残る物語 | [書評]冷静と情熱のあいだ―Rosso
男性目線と女性目線、2人の作家によってそれぞれ描かれた物語
本作はイタリアのミラノを主な舞台に描かれた恋愛小説で、江國香織が女性の視点からの物語を、男性の目線の物語を辻仁成が描いています。
どちらか片方を読むだけでも十分ですし、両方揃えて同じ時を過ごした別々の二人の物語として照らし合わせながら読むという楽しみ方も出来る作品だと思います。
その辺の掛け合いはとてもよく出来ていて、二人のすれ違いや、言葉にされることのなかった秘められた思いなどが、心に響くようなリアリティのあるものになっていると思います。同じ時を過ごしてもここまで感じることが違うのだなと、フィクションながら感心させられます。
主人公のアオイという女性
Rossoの方はアオイという女性が主人公で、彼女の視点で語られる物語になっています。アオイはイタリアのミラノでマーヴという優しくて裕福な彼と一緒に暮らしています。
マーヴとの生活は過不足がない。しずかで穏やかで、みちたりている。
一見羨ましい限りの恋人ですが、アオイはいつもどこか心此処に在らずといった雰囲気を醸しています。
世界は私の外側で動いていく。
アオイにとってはマーヴのことだけではなく、全てのことが彼女の外側で動いているのです。優しい恋人、アオイを優しく見守り支える友人たち、仕事、過不足のない生活、全てがアオイにとってはどこか他人事です。
その理由は、彼女の過去にあります。10年以上前に別れた順正と言う恋人のこと、彼とのある約束をアオイは今も忘れられず、現在を上手く生きることが出来ないでいるのです。
途方もなく一途な恋愛物語
アオイは順正の存在を心の深いところにしまい込み、決して他人に触れさせません。そのことがアオイ自身を苦しめ、またマーヴやアオイを見守る友人を心配させるのですが、アオイにもどうすることも出来ません。
それほど、彼女は順正との過去に捕らわれてしまっているのです。
ただ、順正と話がしたかった。私の言葉は順正にしか通じない。
順正のいない現在を、過去の順正とともに生きているようなアオイの刹那的な生き方がとても切なく、読んだ後も余韻を残す物語です。