意外とこれが村上龍の入門書! | [書評]半島を出よ〈上〉

半島を出よ〈上〉
著者: 村上 龍
ISBN:4344410009 / 発売日:2007-08
出版社.: 幻冬舎

意外とこれが村上龍の入門書

村上龍で有名な本といえば「限りなく透明に近いブルー」とか「コインロッカー・ベイビーズ」ではないでしょうか?

ネット上で「小学校のころ、教室の本棚に『13歳のハローワーク』を見つけて、読んでいた!」というコメントを目にしたことはあります。じつはわたしもその口なんですが、わたしが生まれる前に村上龍は「限りなく透明に近いブルー」という本を書いていたんだな、と子供ながらになんとなく知ることなりました。

なぜ「半島を出よ」を一番先におすすめするのか。

なんとなく名前はきいた事のある作家、だけど読んだことはない。そんなひとが、村上龍イズム(?)というか「ああ、村上龍ってこんな感じなのね」というのをいちばん手っ取り早く知れるのが「半島を出よ」だと思います。

おおすじの話としては、テロが起きて北朝鮮の兵士たちが福岡を占領するという話で、それに慌てふためく、日本の「大人」たち。そんな中で、なんとなくだが、テロリストに立ち向かう「イシハラ・グループ」という子供たち。

読んでるだけでアクション映画を観ているような単純なワクワク感があります。映画でいえば、ゴジラが出てきて、普段えばってるおとなたちがあたふたして、子供たちは「ざまあみろ」って感覚です。

「イシハラ・グループ」って?

この小説、やたらと登場人物が多くて最初の2、3ページで名前がずらずら並んでいます。すごいなこれとおもってましたが、話を追っていくと普通に分かるようになっています。小説ではイシハラ・グループという子供たちの集団がでてきます。

小学校、中学校までの間に学校にいかなくなった子供たちや、犯罪を犯してなかば社会からドロップアウトしているような大人がイシハラという謎のおじいさんのところで生活しているわけです。子供たちの名前はたいていカタカナでしか書かれていません。ヒノとか、サトウとか、カネシロとか。

彼らは思春期をこじらせた感じでものすごい破壊衝動とか抑圧をこころのなかにもっています。じゃあ映画にでてくる異常犯罪者やサイコパスなの? って感じですけれどそうじゃないんだよ、といった書きかたです。じっさい子供たちはお手製の爆弾をつくれたり、武器を使えたりする特殊技能の持ち主で、それでテロリストに立ち向かってゆくわけです。

ヒノは高層ビルが好きだったのだそうだヒノは高層ビルが好きだったのだそうだ。空に向かって延びて、少しずつ形を整えていく高層ビルは生きているのだと思っていたらしい。まるで生きもののようだと思ったのではなく、本当に生きていると思ったのだ。だってね、もし宇宙人が建築中の高層ビルを見たら、きっと生きものだと思うはずだよ。ヒノはタテノにそう言ったことがある。ヒノによると、高層ビルの電気や給排水や空調の配管は人間の血管や内分泌腺にそっくりなのだそうだ

「コインロッカー・ベイビーズ」もおすすめ!

さきほどイシハラ・グループは「サイコパスや異常犯罪者じゃないんだよ」と言いましたが、そこらへんの主人公の心理が理解できるかができないかが、村上龍が「めっちゃ好き」か「めっちゃ嫌い!」になる分かれめ目だと思います。(ちなみにわたしは好きです)。

かれらの破壊衝動が、他の作品ではあまりにえぐく描かれているので、まずストーリーだけで楽しめる「半島を出よ」を読むことをおすすめします。

 

半島を出よ〈上〉
著者: 村上 龍
ISBN:4344410009 / 発売日:2007-08
出版社.: 幻冬舎

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