結末へ加速する悪夢 | [書評]断章のグリム 12巻 しあわせな王子〈上〉

断章のグリム〈12〉しあわせな王子〈上〉
著者: 甲田 学人
ISBN:4048685414 / 発売日:2010-05-10
出版社.: アスキーメディアワークス

変わっていく環境

悪夢の幻想忌憚の第12段です。

いままではただ、起こった悪夢に対応していた蒼衣。積極的に関わる雪乃という構図がであがっていました。助っ人を求められ行く町でも、蒼衣の最優先は「日常」であることや、「普通」であることです。被害者も、悪夢の潜有者もすべて守りたい、救いたいという思いで行動していました。

それとは全く別に、雪乃は悪夢そのものを恨んでいるのですべてを消し去り、憎悪しています。

前作で死んだはずの瑞姫が行きていること、そしてそれを行ったのが「葬儀屋」だということで物語はより悪夢へと転がるようにおちていきます。蒼衣の思いとは別に普通から離れて行かざるを得ない彼に、悲しい思いがこみあげます。

不安感にとらわれた登場人物たち

「で、あの・・・生き返った後は、どうなるんです?」
「まともな結末は、ほとんどないわ」

葬儀屋さんからの応援が蒼衣と雪乃にきた。葬儀屋・瀧の断章の力で生き返った被害者のひとりが逃げ出してしまったのを捕えてほしいという。

いばら姫の泡禍のときに死んだはずの颯姫の妹・瑞姫が生きていることに対して疑念を増す雪乃。前から感じていた葬儀屋への騎士としての尊敬は変わらずにあるが、彼女の相棒・加南子への懸念と恐怖を抱えていた。

その思いを肯定するように、死体を捜しともに行動する加南子の行動がより雪乃が彼女への疑惑を深まらせることになる。

誰のための悪夢?

がしゃん!と蓋が下に開いて中から、血濡れの人間の顔の皮がこぼれ出した。

泡禍にあふれる街にでて、死体を捜す彼らの前は被害者である少女と、彼女のことを守ろうとする少年を見つける。動く死体となった少女を殺すことだけを考えている加南子。その考え自体には賛成だが、動きの中に違和感しか覚えられない雪乃。

加南子の目的は、本当に泡禍を除去することなのか、それとも別の目的が存在するのかあまりにも不気味だ。一度は逃げた少女・浅井安奈と彼女に恋心を抱き、助けようと動く田代亮介を追い詰めたときにその異和感は最高潮になる。

安奈は、彼女をかばい殺されそうになる亮介をかばったのだ。

そして、加南子はそんな彼ごと殺そうとする。

断章のグリム〈12〉しあわせな王子〈上〉
著者: 甲田 学人
ISBN:4048685414 / 発売日:2010-05-10
出版社.: アスキーメディアワークス

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